さまざまな老視の対処法について、梶田眼科の梶田雅義先生に伺いました。

東京都港区・梶田眼科

− 梶田眼科に老視の方がいらしたときの対処法を教えてください。

梶田Dr: 梶田眼科での老視の方への対処としては基本的に累進屈折力レンズのメガネやマルチフォーカルコンタクトレンズを処方しています。

− 単焦点のいわゆる老眼鏡を処方したり、コンタクトレンズの度数を弱く合わせるといった処方はされていないのですか?

梶田Dr: 老眼鏡は決まった距離しか見えませんから、ほとんど選択肢に入れていません。患者さんが「近くが見えない」と言ってきても、その「近く」にもいろいろな距離があります。スマホを見る距離は25~30㎝くらいですし、パソコンなどの作業を考えると75~120㎝くらいの範囲も「近く」に入ってくることがあります。そうなると、どうしても単焦点の老眼鏡では対応できないですよね。また、コンタクトレンズの度数を弱く合わせると遠くの見え方が低下しますが、遠くの見え方が悪いことも眼精疲労の原因になります。私は、老視に対する処方は疲れ眼や眼精疲労対策としても考えていますので、この方法も使わないですね。

− どのような考え方で対処されているのですか?

梶田Dr: 年齢よりも、生活環境や本人の特性に重きを置いて処方を考えています。特性というのは「ボケをどれだけ許容できるのか」ということなのですが、人によってかなり違いがあります。多少ボケていても気にならない人もいれば、そうでもない人もいます。焦点深度や乱視などまで考えると、自覚的な調節域は個人差が大きいので、実際にはやってみないとわからないという部分も大きいです。

− 累進屈折力メガネは、まず常用できるものから処方を考えるのですか?

梶田Dr: そうです。まずはふだん使える遠近両用のメガネを考えます。加入度数は+2.5Dを超えないようにしています。それを超えてくると快適に見ることができなくなるからです。+2.5Dで加入度数が足りない場合には、近方の作業用に30~120㎝が見えるような近近用の累進屈折力メガネを併用させています。もともと左右の度数に差がある人には、累進屈折力メガネでモノビジョンにすることもあります。単焦点のモノビジョンよりも累進屈折力レンズでのモノビジョンのほうが楽なんですよ。度数差も小さくてすみます。例を挙げると、左右差を1Dつけて、遠方用の加入度数を1D、近方用の加入度数を1.5~1.75Dという感じです。これだとメガネでも歪みが少なくてすみますので、快適にかけることができます。

− コンタクトレンズの処方はいかがですか?

梶田Dr: 先ほども言いましたが、コンタクトレンズで低矯正にすることは選択肢に入れていません。老視でコンタクトレンズを希望されている方には基本的にマルチフォーカルコンタクトレンズを処方しています。梶田眼科ではマルチフォーカルソフトコンタクトレンズがコンタクトレンズ処方全体の23.3%、マルチフォーカルハードコンタクトレンズが2.8%ですから、4人に1人にマルチフォーカルレンズを処方していることになります。

− 老視への処方には疲れ眼防止という考えが入るとおっしゃっていましたが、コンタクトレンズでもそうですか?

梶田Dr: 疲れ眼の予防にはマルチフォーカルコンタクトレンズが最も有効です。眼の疲れというのは毛様体筋の疲れが大きいのですが、単焦点レンズを使用しているときに見る距離がちょっと変わったら、毛様体はその度に反応してピントを合わせますよね。マルチフォーカルの場合には、加入度が入っているので、少しの移動であればピント合わせしなくても見えてしまいますから、微調整をしなくてもよいのですよ。たとえば、40㎝から33㎝に視線を動かすと1D調節する必要がありますが、マルチフォーカルだと毛様体筋を働かさなくても見えてしまいますので、疲れないのです。

また、もちろん単純にマルチフォーカルコンタクトレンズを入れることで近くを見るときの調節量が小さくてすむ、ということも関係しているでしょう。累進屈折力のメガネでも同じような効果は期待できますが、メガネの場合は近くを見るのに目線をずらす必要がありますから、目線をずらす必要がないコンタクトレンズのほうが有利です。

− 先生は比較的若い方にもマルチフォーカルコンタクトレンズを処方されると聞きましたが…。

梶田Dr: 調節機能に異常がある場合には10代や20代でも使うことがありますが、調節が正常な場合には35歳以降くらいでしょうか。私は35歳から44歳6ヶ月までを初期老視と呼んでいます。見えるか見えないかで言えば、近くも見えるのですが、維持するのがつらくなる年代です。その年代の人で眼の疲れを訴えている人がいれば、検眼枠に+1.0D程度の累進屈折力のレンズや+0.75D程度の単焦点レンズを入れて近くを見させて、レンズをはずしたときに「眼に力が入った感じがしない?」と聞いてみるのです。またその後に再度レンズを入れて「力が抜けたのがわかる?」と聞いてみます。この感じがわかったら、すでに初期老視です。これを体験してもらうと、疲れを取るためにマルチフォーカルコンタクトレンズや累進屈折力メガネを受け入れてくれます。

「老眼」という言葉を使わないこともポイントですね。老視対策というよりも、疲れ眼に良いコンタクトレンズとして説明し使ってもらっています。30代後半の方でも1週間くらい使ってもらえれば違いが実感できますから、満足度も高いですよ。

− コンタクトレンズとメガネはどのように使い分けていますか。

梶田Dr: たとえば、-2.5D付近の近視の方は裸眼で近くが見えますよね。メガネをはずせば近くが見える人は裸眼も矯正のひとつのオプションと考えられますので、簡単にはずせるメガネが良い選択になりますよね。そうでない人は疲れ眼などのことを考えるとコンタクトレンズが良いです。また、正面視で近くの作業のある人はメガネではなく、コンタクトレンズを処方します。もちろん、患者さんのご希望も考慮に入れます。

− モノビジョンでコンタクトレンズを処方されますか。

梶田Dr: 単焦点コンタクトレンズでのモノビジョンは積極的には勧めていません。単焦点コンタクトレンズでは両眼視機能などに影響が出てきますので、モノビジョンをするのであれば、マルチフォーカルを使います。モノビジョンに使うには、遠くの見え方の良いマルチフォーカルコンタクトレンズが良いですね。片目でもしっかり遠くが見えるレンズでないとモノビジョンはうまくいきません。中間距離や近方を重視したタイプのマルチフォーカルコンタクトレンズで遠くを見るには両眼で見せることが必要ですから、モノビジョンにはあまり向きません。私がモノビジョンの処方をするのは、手元の作業が多くて疲れるという訴えがあるということを基準にしています。そのため、年齢はあまり関係なくて、初期老視の方からモノビジョンにすることがあります。

− 最近はマルチフォーカルコンタクトレンズにも高い患者満足度の得られるものが多く出てきていると思います。これからマルチフォーカルコンタクトレンズを処方される先生方にメッセージをお願いします。

梶田Dr: いろいろと良いレンズが出てきていますので、まずはご自身で装用して見え方を体験されることをお勧めします。また、患者さんの反応を見ることでも、それぞれのマルチフォーカルコンタクトレンズの特性がわかってきますから、患者さんにも積極的に処方してみることをお勧めします。すべての患者さんに1種類のマルチフォーカルコンタクトレンズで対応することはできませんので、それぞれのレンズ特性を理解しておくことが大切です。

− ありがとうございました。

梶田 雅義 Masayoshi Kajita

1976年 山形大学工学部電子工学科卒業
1983年 福島県立医科大学卒業 福島県立医科大学眼科学講座入局
1988年 福島県立医科大学眼科学講座助手
1991年 福島県立医科大学眼科学講座講師
1993-5年 カリフォルニア大学バークレー校留学(研究員)
2002年 福島県立医科大学退職
2003年 梶田眼科院長
専門分野: 屈折矯正、眼精疲労、コンタクトレンズ処方

CLINIC DATA

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10:00~13:00 15:00~18:30(土曜日は17:00まで)
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木曜日、日曜日、祝日
   
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