遠近両用コンタクトレンズの処方のコツと心構えについて、
しおや眼科の塩谷浩先生に伺いました。

福島県福島市・しおや眼科

− 日本におけるコンタクトレンズ装用者のうち、老視年齢と考えられる40歳以上の割合が20%を超えてきたといわれていますが、遠近両用コンタクトレンズ(MFCL)の処方は全体の1%もありません。しおや眼科ではどのくらいの割合でMFCLを処方していますか。また、処方成功率はどのくらいですか?

塩谷Dr: 当院のコンタクトレンズ処方全体に占めるMFCLの割合は5%程度です。40歳以上に限定すると30%くらいの方にMFCLを処方していると思います。処方数が増えない原因は、MFCL処方の敷居が高いと感じている先生が多いのではないかということと、処方をしても思ったような結果が得られないということだと思います。処方する側のレンズに対する期待が大きすぎて誤解を生じてしまったために、積極的に処方できなくなっているのではないでしょうか。経験を積んで学習することが成功への近道です。

処方成功率に関しては、日本で2週間交換MFCLが発売された10年前は、選択肢が少なく、経験も少なかったので、当院でも70~80%でした。今は、多くのMFCLが処方可能になり、処方成功率は90%くらいになっています。

− MFCLの種類は増えたということですが、遠近両用としての性能は向上しているとお考えですか?

塩谷Dr: 明らかに向上していると思います。とくに2週間交換MFCLが発売された10年前あたりからさまざまなデザインのMFCLが出てきて、最近のものは性能もかなり良くなっていると思います。

昔は遠近両用の眼鏡と混同して考えてしまい、年齢に伴い加入度数を+3Dとか+3.5Dにしなければと考える人も多かったのですが、現在は、今あるレンズの機能をいかに活かすのかという考え方で処方することができます。最近のMFCLは加入度数が低くてもあらゆる年齢に対応できるようになっていると思います。

− 処方のしやすさといった点はどうですか?

塩谷Dr: MFCLの処方は決して難しいものではありません。むしろ乱視を矯正するトーリックレンズよりも簡単なほどです。MFCLの処方には曖昧なところがあるため、一般的には処方は難しいと思われていますが、実際には処方成功率は高いのです。ただ、曖昧なところがあるということは、見え方のクオリティなどの点で患者さんにある程度我慢してもらわなくてはならないということも意味しています。処方を成功させるために大切なことは、適応となる患者さんにMFCLを受け入れてもらうために、どのように説明し理解してもらうかということです。

− MFCLはどのような人に処方しやすいのですか?

塩谷Dr: 一般論で言えば、見え方の曖昧さに妥協できる方が向いていて、運転で遠くを見たり、細かい作業をしたりする人は向いていません。ただ、それを見抜くのは難しく、職業から推察するのがいいかもしれません。主婦の方などは比較的成功しやすいように感じています。

遠視の方であれば30代後半から40代前半でもうまくいきますが、近視の場合、40代後半、特に47~48歳くらいから処方成功率は一気に高くなります。ただし、適応を年齢だけで考えることは危険で、近くを見ることへの不満の程度が問題なのです。また、これまで使っていた矯正手段の見え方も大切です。たとえば、遠くがクリアに見えるように矯正されていた方は、近くは当然見えにくいと感じており、適応になる可能性があるのですが、遠くの見え方に妥協できないこともあるので、うまくいかないこともあります。

また、どうしても眼鏡をかけたくないという強い希望とモチベーションが処方成功率を高めることもあります。コンタクトレンズ未経験の50代、60代の症例も経験していますので、年齢やコンタクトレンズの経験にも関係なくモチベーションが高ければ処方がうまくいくということだと思います。

− 先程、加入度数の話が出ましたが、最近のMFCLは加入度数の設定が少ないものが多いようです。加入度数はどのように選べばよいのでしょうか?

塩谷Dr: 加入度数は、年齢に関係なく、すべてのメーカーのMFCLにおいて最も弱い加入度数からスタートします。MFCLでは、加入度数の違いにより遠方度数に影響が出たり、見え方が変わったり、レンズのデザインも加入度数によって変わることがあります。最初は遠方の見え方に影響が少ないものというのが基本ですので、加入度の弱いものから入っていきます。遠方の満足度を落とさないというところが最初のポイントになります。そして、実際に装用継続できるかどうかは、患者さんに1週間ほど使っていただき、見え方に慣れてもらってから判断すればよいと思います。

− 現在、数多くのMFCLが処方可能になっています。実際は、クリニックにすべてを置くわけにはいかないことが多いと思いますが、MFCLを処方するためには何種類くらいあるのが理想ですか?

塩谷Dr: 最低2種類あればよいと思います。光学部の遠用と近用が逆のパターン、要するに中心が遠用なのか近用なのかという違いや、シリコーンハイドロゲルと普通のソフトレンズ素材など、光学的な視点だけではなく素材のことも考えて、違うタイプの2種類を揃えるとよいと思います。

− これからMFCLの処方を始めようとする先生方は、まずどんな患者さんから始めればよいのでしょうか?

塩谷Dr: 処方を成功させるためには適応が非常に大事になります。適応は、先程も言いましたが、年齢ではなく、近くを見るのにどれだけ困っているかで考えます。最初は、近くが困っている遠視の方がよいのではないでしょうか。遠視の方はコンタクトレンズにするだけでも、調節が楽になりますから、単純に単焦点の遠視用のコンタクトレンズでもうまくいきます。さらにMFCLであっても、ほとんどうまくいきます。また、遠くにも近くにもそれほど見え方への要求度の高くない主婦の方もよいでしょう。

− 今後、高齢化社会になり、MFCLの需要も高まることが予想されますが、MFCLが発展していくためにはどのような取り組みが必要とお考えですか?

塩谷Dr: まずメーカーへの要望ですが、遠用度数がプラスのレンズを充実させる必要があるでしょうね。それから、現在の30~40代はワンデーの使用者が多いので、彼らが老視になるときのことを考えると、ワンデーのMFCLの種類を増やす必要も感じます。あとは、乱視にも対応できるもの。また、値段が高すぎるので、もう少し安く供給できないと初めて使う方にはすすめにくいと思います。

次に学会などのセミナーや地域の集談会などでMFCLについて学べる機会をつくったり、適切な情報提供をしたりすることも必要でしょう。情報提供という意味では、患者さんに対しても言えることで、患者さんがMFCLの存在をあまり知らないということも処方数が増えない要因のひとつだと思います。クリニック内の掲示物などを通して患者さんにも情報提供することで需要は高まるのではないでしょうか。そしてそのことが患者さんの見える喜びにもつながっていくのではないかと思います。

− ありがとうございました。

塩谷 浩 Hiroshi Shioya

1985年 福島県立医科大学卒業
    福島県立医科大学眼科学教室入局
1990年 福島県立医科大学眼科学教室助手
1991年 医学博士学位取得
1992年 しおや眼科開設
専門分野 コンタクトレンズ、屈折

CLINIC DATA

所在地
福島県福島市置賜町5-26
診療時間
10:00~13:00、14:30~18:30
休診日
日曜、祝日、第1・第3水曜、水曜午後
   
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