カラーコンタクトレンズの抱える問題点について、 道玄坂糸井眼科医院の糸井素純先生に伺いました。
東京都渋谷区・道玄坂糸井眼科医院
− 最近、若い女性を中心におしゃれを目的としたカラーコンタクトレンズ(カラコン)の販売数が増えており、カラコンによる眼障害が社会問題にもなりつつあります。今回は、カラコンを取り巻く問題点と今後の対策について、日本コンタクトレンズ学会常任理事でもある糸井素純先生にお話を伺います。まず、カラコン自体についてお聞きします。現在販売されているカラコンの素材や着色に問題点はあるのでしょうか?
糸井Dr: レンズ自体にも問題点はあります。ひとつは、酸素透過性が低いことです。日本で出回っているカラコンのほとんどは酸素透過性の低いpolymaconと呼ばれる低含水素材でできているのですが、カラコンではレンズの中心厚が厚いものが多く、周辺の着色部分はさらに厚くなっており、色素や架橋剤が酸素透過性に影響している可能性もあります。結果として多くのカラコンは酸素透過性が非常に低くなっているのです。カラコン装用者の急性酸素不足による角膜の浮腫や傷は臨床でよく経験します。透明なレンズにもpolymacon素材のものがありますが、厚さも全く違いますし、色素の影響を考えると同列には語れません。次に、品質管理の問題があります。調査すると、ベースカーブ、パワー、レンズ径、中心厚などで、今まででは考えられないほどの規格外れのレンズもあり、それが製品として売られているのです。メーカーで品質管理がきちんとされているのか疑問に思います。また、カラコンの着色方法自体にも問題があるものがあります。多くのカラコンは着色部分をサンドイッチ構造にしてあるから安全と言っていますが、そもそもサンドイッチ構造と呼べるのかとも思います。普通、サンドイッチというと、パンとパンの真ん中にハムやチーズが挟んであるものを想像しますが、カラコンの場合、かなり表面に近い部分にカラーがありますよね。これではパンに具を載せてその上に溶けたチーズを載せたようなもので、いうなれば、オープンサンドです。そのような構造ですので、カラーを載せた部分はレンズ表面に凹凸ができてしまうのです。この凹凸によっても角膜障害が起こっています。
− 色素の漏出や着色部分のはがれもあると聞きましたが。
糸井Dr: そうですね。カラコンの着色部が露出しているものもあり、着色剤のはがれはよくあることです。はがれた着色剤が角膜に付着してしまうこともあるくらいですし、当然、眼障害の原因になるもので、大きな問題です。
− 次に流通の問題点についてお聞きします。中高生が眼科医の処方なしでカラコンを購入し使用することが多くなっている現状を踏まえ、今、何が一番問題になっているのでしょうか?
糸井Dr: インターネットや大型ディスカウントショップなどで医師の処方なしで購入した場合、当然、購入者の判断で安全なレンズの選択はできませんし、フィッティングの確認もできません。一番の問題はそこでしょうね。また、レンズパワーも自分で変えることができますから、見えにくいからパワーを上げるということを繰り返して、全く合っていないパワーのレンズを装用していることも珍しくはありません。最近ではスマートフォン(スマホ)が普及して、以前よりも近くを見ることが増えてきましたので、スマホ画面の見過ぎによる仮性近視のような状態になっている人も多くなっています。私は“スマホ近視”と呼んでいますが、そのような状態では当然、遠方視力が落ちますので、パワーを強く変更して、合っていないレンズを使い続けるというケースもあります。 また、一部を除いて、カラコンにはトライアルレンズがないということもあります。トライアルレンズがないということは、眼科で検査をして合わせるということができませんし、もちろん処方することもできないのです。眼科で検査も処方もできませんから、そういったカラコンを買いたい人はインターネットや大型ディスカウントショップで買うしかなくなるということです。
− インターネットや大型ディスカウントショップでの販売、処方箋問題など、法的なことも含めて問題点をお聞かせください。
糸井Dr: カラコンをはじめとした流通の問題の多くは、コンタクトレンズの処方箋が法制化すれば解決すると思っています。ただし、そう簡単にできないのです。まず、処方箋に関して日本眼科医会の意見がひとつにまとまっていませんし、処方箋を義務化しようとすると、現状で利益を得ているネットや通販の業者が規制緩和の名の下に反対することが目に見えています。日本コンタクトレンズ学会などを通して、コンタクトレンズ処方箋の法制化を今後も求めていくように考えていますが、前途は多難です。
− カラコンをめぐる問題点はよくわかりました。では、問題をこれ以上大きくしないために、どのような取り組みが必要になるとお考えですか?
糸井Dr: 啓発活動などの取り組みが大切なのは言うまでもありませんが、品質の悪いカラコンを日本に入れない、という方向での取り組みが重要だと考えています。前にも言ったように、酸素透過性が低過ぎたり、規格外れのレンズがあったり、カラー部分が凸凹していたりするレンズが多く出回っていて、眼障害の原因になっていますから、まずそこを規制することが大切ですね。カラコンの承認基準を見直すことが必要と思います。また、規格外れのレンズをなくすためには、海外でレンズを製造しているメーカーも多いため、レンズメーカーだけではなく、国内の販売元業者にレンズの品質管理を強く求めていくべきでしょう。販売元業者にも抜き取り検査を義務化するなどの対応が考えられます。ただし、これらのことはすぐにできることでも、簡単にできることでもありませんから、少しずつ前に進んでいくしかありません。
− カラコンでトラブルのあった患者やカラコン希望者が来院したときに、どのような対応が必要でしょうか?
糸井Dr: カラコンによるトラブルで来院する人は基本的に2回目の来院はありません。眼が痛いときにしか来ませんから、1回きりの来院と考えたほうがよいでしょう。来院したときにできるだけ伝えるべきことを伝えます。問題のある患者でも一方的に怒ったり、こちらが長々と話し続けたりということではだめです。患者をなだめながら、話をよく聞き、患者が聞く耳を持った瞬間をつかまえる。そのときにできるだけやわらかく話をします。めったにありませんが、うまくいけば患者はニコニコしながら帰っていきます。 カラコン希望者が来院したとき、患者が「このカラコンがほしい」と言ってきたら、どうしようもありませんが、「カラコンを使いたいけれど、どのカラコンがよいですか」という患者には、検査をした後に話をして、できるだけ安全性の高いレンズを処方します。 カラコンをめぐる状況は、そう簡単に好転するものではないと思っています。日本コンタクトレンズ学会などを通じて今後も働きかけていきたいと考えています。
− ありがとうございました。
糸井 素純 Motozumi Itoi
1984年 順天堂大学医学部卒業
1988年 京都府立医科大学大学院修了
1992年 豪州ニューサウスウェールズ大学留学
1993年 米国ロチェスター大学留学
1995年 東京警察病院眼科 副医長
1997年 順天堂大学医学部眼科 非常勤講師
1998年 糸井眼科医院(表参道)院長
2007年 道玄坂糸井眼科医院 院長
日本コンタクトレンズ学会常任理事
専門分野: 角膜疾患、コンタクトレンズ
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