近年、増加傾向にあるコンタクトレンズに起因する感染症。
その背景と対処法、患者さんへの正しいケアの指導ついて、
針谷眼科医院副医院長 針谷明美先生に伺いました。

群馬県太田市・針谷眼科医院

− 使い捨てや頻回交換コンタクトレンズが普及してきているにもかかわらず、なぜコンタクトレンズに起因する感染症が増えてきているのでしょうか。

針谷Dr : 短期間で交換する使い捨てレンズが増えたことで感染症が減ると期待していたのですが、確かに感染症は増加傾向ですね。レンズの装用期間や時間を守らない人、レンズケア(洗浄・消毒)をきちんとしていない人が増えていることが要因と思います。処方している医師側の説明不足もあるのかもしれませんが、使用者に「コンタクトレンズは高度管理医療機器である」という認識がないため、取り扱いを簡単に考えている傾向もあるかと思います。また、医師の診察や処方を受けずにインターネットなどで購入する人や、自己流のケアをしている人が増えていることも、感染症が増えている原因だと思います。

− マルチパーパスソリューション(MPS)を使っている方が多いと思いますが、使用する上で注意しなければならないことは何でしょうか。

針谷Dr : MPSは消毒効果が弱いので、こすり洗いをきちんとし、すすぎをして、表面の汚れや菌数を減らすといったことがポイントです。これらをきちんとやっていただくことが大事だと思います。MPSに、ただ浸けているだけ、ひどいときはケースにつぎ足しながら使用しているという方もいるようです。レンズケースに指を入れると、多少なりとも細菌が入り込みます。MPSを毎日交換せず、つぎ足しながら使えば、細菌が増殖する危険性があります。また、アカントアメーバによる感染症を起こした方のレンズケースが汚い、ということも多く報告されています。MPSを毎日交換して、レンズケースも洗って乾燥させることは、有効な感染症対策です。

− レンズケースの交換時期はどのように指導されていますか。

針谷Dr : 細菌は24時間で増殖し、バイオフィルムは24時間から形成されます。レンズケースを毎日取り替えれば一番よいのですが、なかなかそうもいきません。毎日レンズケースを清潔にして、ケア用品の新しいボトルを使い始めるとき、だいたい月1回くらいのペースで交換できればよいと思います。最近、お徳用ボトルが出回っていますが、量が多い分レンズケースも長く使うことになりますので、感染症のリスクは出てくるかと思います。

− MPSを長い期間使用すると、MPSのボトル自体に細菌が増殖すると聞いたことがありますが。

針谷Dr : SCLの保存液を培養して調べた過去の論文では、セラチア、緑膿菌などグラム陰性桿菌が分離されていることが20年前から報告されています。MPSはグラム陰性桿菌に対する消毒効果が弱いので、MPSのボトルに環境菌が入り込むことがあるようです。また、アカントアメーバはグラム陰性桿菌を餌にして育つと言われていますので、そこにアカントアメーバが入り込めば、感染のリスクは高まると思います。

− 先生はソフトレンズのケアに過酸化水素を第一選択にしていると聞きましたが、なぜですか。

針谷Dr : MPSは便利ですが、きちんと使いこなせることが大前提となります。簡便性という意味では過酸化水素もMPSも大差はありませんし、過酸化水素は医療の上でも消毒剤として使われていて、身近な環境菌などへの高い消毒効果がありますので、第一選択としています。過酸化水素は、中和忘れなどの誤使用によるトラブルの可能性もあるのですが、失明につながるような合併症ではありません。MPSを長年使い慣れている方など、きちんとしたケアができるのであれば、MPSでもよいかと思います。

− ワンデーレンズでも感染症は起こるのでしょうか。

針谷Dr : ワンデーレンズは、正しく使えば感染症のリスクは少ないのですが、なかには洗って使う方もいるようです。ワンデータイプのものを水道水に浸けて再装用してアカントアメーバ角膜炎が発症した報告があります。誤使用はトラブルの原因になると思います。

− 感染症には手洗いも大切だと思いますが。

針谷Dr : 地球上には未知なる微生物がおり、私たちは常在菌や腸内細菌と共存していますから、無菌環境で生活することはできません。感染症の基本はとにかく手洗いです。ただし、手洗いも、「正しい手洗い」をしないと意味がなくなってしまいます。また細菌だけではなく、手指についた汚れもレンズにつけてしまいます。流水で手をこするだけの簡単な手洗いは、意味がありません。石鹸と流水できちんと洗い流すことが基本です。

− 患者さんのケア状況はチェックされるのでしょうか。

針谷Dr : 定期検診時に、装用時間、装用期間、使用しているケア用品を確認するようにしています。初診の方などは、レンズ名やケア用品名がわからないという方が多いので、ケア用品一覧表の写真を見せて選んでもらったり、次回来院時にケア用品名を書いたメモや現物のボトルを持ってきてもらって確認するようにしています。

− レンズケアをきちんとしてもらうために、何を心がければよいですか。

針谷Dr : 説明を受けていても、「聞いていない」という方もいますし、1回の説明ですべて理解してもらうのは難しいですね。説明どおりきちんとケアをしていた方でも、だんだんルーズになっていったり、勝手にケア用品を変えてしまうということも多々あります。レンズケアの説明は手間がかかることかもしれませんが、面倒がらずに医師が指導することが大事です。何度も繰り返し指導することと、スタッフの力も借りて再確認をすることが一番だと思います。

− 最後に、先生はルールを守れない患者さんに対して、どのように指導されていらっしゃいますか。

針谷Dr : ケアができない患者さんには最初からワンデーレンズをおすすめします。また、リーフレットなどを使用しながら、「あなただけはこうならないように」と、コンタクトレンズの落とし穴について説明しています。それでもルールを守れない患者さんには、私の場合は、「お願いだからコンタクトレンズはやめましょう」という言い方をさせていただき、眼鏡の使用をおすすめしています。最近は経済的な理由から装用期間などのルールを守れない患者さんが増えていますが、「コンタクトレンズと薬だけはエコロジーしないように!」と、しつこく呼びかけています。うるさがられても、患者さんへのコンタクト教育はしつこく繰り返すことが大事だと思います。

− ありがとうございました。

『感染症予防のために ~正しい手洗いの方法~』

監修 : 針谷眼科医院副医院長 針谷明美先生

手を洗うことは眼感染症予防の基本です。正しい手の洗い方をわかりやすく解説した リーフレットをご用意いたしました。ぜひご活用ください。

針谷 明美 Akemi Harigaya

1984年 聖マリアンナ医科大学医学部 卒業
1990年 聖マリアンナ医科大学眼科学 助手
2003年 聖マリアンナ医科大学眼科学 講師
2009年 聖マリアンナ医科大学退職後の 
4月より、針谷眼科医院副医院長、
聖マリアンナ医科大学非常勤講師
専門分野 コンタクトレンズ、感染症

CLINIC DATA

所在地
群馬県太田市東本町23-27
診療時間
9:00~12:30、14:00~18:00(木曜、土曜は午前のみ)
休診日
日曜日
   
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