小児の屈折異常と矯正について、
西葛西井上眼科こどもクリニックの勝海 修先生に伺いました。
東京都江戸川区・西葛西井上眼科こどもクリニック
ー 小児の屈折異常について教えていただきたいと思います。
勝海Dr: まず、小児の屈折異常を考える時には、遠視と近視、あるいは年代などを分けて考える必要があります。日本は近視大国で、日本人の60%が近視といわれています。約6000万人が眼鏡をかけており、コンタクトレンズ装用者も約1800万人います。厚生労働省が小中高生の視力の統計を1年ごとにとっているのですが、昨年の記録を見ると、視力が0.3未満の小学生の割合が30年前の2.9%から7.4%に大幅に増えていることがわかります。視力不良の95%が近視で、高学年に集中しているようです。これだけ近視が増えているのは、ポータブルゲーム機や携帯電話の普及が原因だと思います。30年前に比べて、子供が目を酷使する機会が増えているのでしょう。目を酷使すれば、当然近視化しますので、ゲームをする時間を短くするように指導する必要がありますね。
また、小児の近視では視力が両眼でおおよそ0.5をきったら、眼鏡をかけるように指導しています。これは、だいたい高学年で黒板の文字が見えにくくなる視力です。
− 遠視の場合はどうでしょう。
勝海Dr: 近視で弱視になることはほとんどないのですが、遠視の場合、弱視予防ということも考えなければいけません。遠視の子供は、常にぼけた像しか見えていないので、脳がクリアな像を認識できず、弱視になり、字を学ぶことが遅れる傾向があります。読むスピード、いわゆる識字スピードを測りますと、正視や近視の子供の場合、小学校入学時で1分間に250字くらいで、12歳で350~400字くらいにまでなりますが、遠視だと、入学時で150字、12歳の時にも280字程度です。今までは、視力だけで弱視の判断をしていましたが、字を読むスピードも考慮にいれる必要があると思います。最近では、遠視の患者さんが小学生になった時点で全員に識字スピードの検査を行い、半年ごとにチェックしています。識字スピードが遅い子には、ご両親にも協力していただき、なるべく速く読めるように音読トレーニングなどをしてもらっています。
遠視は、矯正してもすぐには視力が出ず、ちゃんと見えるまでに半年から1年くらいかかることがあります。それまでクリアな像を見てこなかったため、眼と脳とを結ぶ回路がうまく機能していないためです。それが働き出すまでに少し時間がかかることがあるのです。3歳から6歳で遠視の有無はわかりますので、3D以上の遠視がある場合には早めに眼鏡をかけたほうがよいでしょう。6歳くらいまでに遠視であることがわかれば、弱視の治療効果が期待できます。ただし、7歳以降では治りが遅くなり、10歳になるとかなり厳しいと思います。
遠視の矯正は、完全矯正が基本ですが、ある程度たつと、自分でも調節させるように1Dくらい遠視を残して処方することもあります。
− 屈折矯正には眼鏡をかけさせると思いますが、眼鏡を嫌がる子供はいませんか。
勝海Dr:基本はもちろん眼鏡です。乳幼児では、眼鏡を嫌がる子供は少ないですね。眼鏡をかけることでものがよく見えるようになるからです。それが小学生くらいになり自我が芽生えてくると、特に女の子ですが、外見を気にして眼鏡を嫌がることもあります。近視が軽いようでしたらあえてかけさせません。ただし、眼鏡をかけること自体が精神的に負担になるような場合もありますので、そのような時にはコンタクトレンズを考えます。
− 子供にコンタクトレンズを処方するのはどのような場合ですか。
勝海Dr: 以前は15歳未満にコンタクトレンズを処方することはなかったのですが、年々、処方する年齢が下がっていますね。ただし、特別な事情もなく、周りの友達がしているからとか、そういった理由でコンタクトレンズを希望する子供に処方することはありません。バレエや体操など、どうしても眼鏡をかけられない活動やスポーツをしている子供には、10歳くらいになれば、ワンデーレンズをオケージョナルユースで使用するように指導して処方しています。当クリニックでは、サッカーや野球などのスポーツにはスポーツゴーグルを勧めています。コンタクトレンズを使用させる場合、最初は3~4時間、練習や試合の時だけ使用させ、慣れてくると朝装用して最長12時間くらいまで、というように指導しています。中学生くらいになると基本的に12時間くらいですね。
− 最近、近視抑制という考え方が話題に上っていますが、先生はどのようにお考えでしょうか。
勝海Dr:近視抑制という意味では、オルソケラトロジーが選択肢の一つになると思います。ソフトコンタクトレンズで近視を矯正している場合、焦点が合っているのは網膜の中心部だけで、周辺部は焦点が合わずにぼけています。このぼけが近視を進行させる原因と考えられているのです。オルソケラトロジーのレンズは、特殊な形状のハードレンズで角膜を圧迫して、角膜の形状を変えて矯正していますが、そのことで焦点が網膜の周辺部にも合うようになります。オルソケラトロジーで半年ごとに眼軸長を測って経過を見ていくということも今後は必要かもしれません。ただし、そういった場合は、ご両親の近視が非常に強く、子供の近視の進行が心配だというケースに限られますね。オルソケラトロジーによって、最終的に2Dでも3Dでも近視が抑制されれば、成功といえるのではないでしょうか。オルソケラトロジーが使えないなら、ハードコンタクトレンズをフラットめに処方するとよいかもしれません。ハードレンズよりもソフトレンズの方が、近視が進みやすいというデータもあります。
または、累進レンズの眼鏡を使うという手もあります。近くを見る時の調節を助けてあげることで近視化を防ぐのですが、アメリカでは20~30年前から行われている方法です。ただ、ご両親が子供に対して累進レンズを使うことに抵抗感を持つこともありますので、なかなか難しいです。
− 近視過矯正が近視を進める一つの原因というように考えられるのですか?
勝海Dr:過矯正というのは、近視を遠視にしてしまうことです。遠視になると調節機能をより使うことになります。近視が起こってくる原因の一つは、調節により毛様体が疲れた状態が続き、この状態を仮性近視といいますが、眼球が少し長くなって近視が起こるわけです。また、調節ラグが多くなるような状態の時に近視が進むというような考え方もあります。どちらにせよ、近視過矯正は、近視を進める原因の一つですね。
それから、栄養面でお勧めしたいのがカシスです。カシスにはアントシアニンという成分が入っていて、毛様体をリラックスさせる効果があります。まだまだわからない部分も多いのですが、近視抑制に効果があるのではないかと考えています。オルソケラトロジーやハードレンズと組み合わせて使えばよいのではないかと思います。
最近では、1年間に1.5Dくらい近視化する子供が多くて、ほとんどの場合、ポータブルゲームのしすぎが原因です。こういった子供の中には利き目だけ近視が進んでしまい不同視になってしまう子供も少なくありません。中学生になる頃にはコンタクトレンズにするしかなくなってしまいます。できれば、ゲームはほどほどに、本を読む時には姿勢を正しく、近くでテレビを見ないといったことを根気よく指導していくしかないですね。
− 最後に、これから小児を診ることがある先生方にメッセージがあればお願いします。
勝海Dr:小児の場合、正確な屈折検査が非常に重要です。最近では、スキアスコピーをできる先生が少なくなってきていますが、小児の屈折を正確に測定するのにスキアスコピーは有効です。学会などでもスキアスコピーのコースがありますし、若い先生にも、ぜひ機会を見つけて習得していただければと思います。
− ありがとうございました。
勝海 修 Osamu Katsumi
1973年 慶應義塾大学医学部卒業
同大学医学部眼科教室入局
1976年 国立栃木病院
1981年 国立小児病院
1982年 米国 Eye Research Institute of Retina Foundation, Research Associate
1985年 東京女子医科大学眼科 助教授
1987年 ハーバード大学医学部附属
Schepens Eye Research Institute留学
同大学医学部眼科 Instructor,
Schepens Eye Research Institute ,Assistant Scientist
1996年 勝海眼科医院開設
2004年 医療法人社団済安堂西葛西 井上眼科クリニック所長
専門分野 小児眼科
CLINIC DATA
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