学校における色覚検査について、
鈴木眼科の鈴木一作先生に伺いました。
山形県寒河江市・鈴木眼科
− 色覚検査の話をしていただく前に、まず色覚異常についてお聞きしたいと思います。色覚異常というと、一般の方は誤解や偏見を持たれていることが多いと思うのですが、いかがでしょう。
鈴木Dr: 色覚異常というのは、「色が全く分からない」、「モノクロの世界だ」、「信号の色が区別できない」などと誤解している人が少なくないようです。確かに色覚異常のタイプによっては、そのような見え方の場合もあります。しかし、それは「1色覚」という極めて稀なタイプであって、高度な視力障害も伴います。これに対して、かなりの頻度でみられるのが1型・2型の「2色覚」や「3色覚」というタイプの色覚異常で、視力障害はありません。もちろん、近視や乱視で眼鏡をしないと見づらい人もいるでしょうが、それは色覚正常の人だって同じですね。色の見え方にしても、特定の色が他の人と少し違って見える程度で、多くの場合、通常の日常生活ではほとんど支障がないと言ってもよいでしょう。また、同じ型と程度の色覚異常、たとえば「1型2色覚」の人が2人いても、その2人の見え方が同じとは限りません。つまり、個人差があります。これらのタイプの色覚異常は、日本人の場合、男性の20人に1人、女性の500人に1人で、女性の10人に1人が保因者です。遺伝による先天異常としては最も頻度が高いのですが、一般には良く知られていないのが現状です。
− 平成15年度より、学校定期健康診断の必須項目から色覚検査がなくなったそうですね。現在、学校では色覚検査は実施されていないのですか。
鈴木Dr: 色覚検査が学校健診の必須項目でなくなったとはいっても、禁止されたわけではありません。文科省の「今後も、学校医による健康相談において、色覚に不安を覚える児童生徒及び保護者に対し、事前の同意を得て検査、指導を行うなど、必要に応じ、適切な対応ができる体制を整えること」という通知にもあるように、きちんと手続きをとった上で実施してよいのです。日本眼科医会も「先天色覚異常者が自己の色覚を正しく認識することは、職業選択、色覚誤認による事故防止などの観点から重要」として、学校健診における色覚検査の必要性を訴えてきました。しかし現実には、平成15年以降、色覚検査を実施しない学校が多くなりました。色覚検査をしなければ、教師は自分のクラスに色覚異常の子供がいるかどうかわかりません。色覚異常に対する意識すら持たない教師が増えつつあることも、私は心配です。
− 先生が学校医を担当されている小学校では色覚検査を実施しているそうですが、どのような形で行なわれているのでしょうか。
鈴木Dr: まず学校から、色覚異常の頻度、保因者の意味、検査の必要性、個人情報保護などについて記された「色覚検査のお知らせ」を小学4年生の児童、保護者に配布してもらっています。これは学校健診としての色覚スクリーニング検査の同意書も兼ねたものですが、ほぼ100%の回収率で、かつ大部分が検査に同意してくれています。
色覚スクリーニング検査は眼科学校医ではなく、養護教諭に石原式色覚検査表を使って実施してもらっています。色覚異常の疑いがあった児童に対しては、学校から「色覚健康相談のお勧め」という通知を出してもらい、後日、当院で色覚の精密検査と健康相談を行います。これは、プライバシーと時間の確保が十分可能となるよう、電話予約制で、当院の休診日である木曜日の午後に実施しています。
「色覚検査は、小学4年生ではなく1年生で実施すべきではないか」という意見もありますが、私は従来通り4年生で実施してもらっています。これは、1年生では色覚の精密検査(特にアノマロスコープ)が難しいことと、色覚健康相談における説明を理解することが難しいと思うからです。また、4年生に色覚異常が発見されることで、他の学年の先生方も「自分のクラスにも色覚異常の児童がいるかも知れない」と意識してくれます。そう意識してくれることで、授業でも色覚異常に対する配慮が生まれてきます。
− 学校で色覚スクリーニング検査をしてもらったり、同意書をとってもらったりするには、学校と良い関係を築くことも大切と思いますが、先生はどのようにされていますか。
鈴木Dr: そうですね。基本的に学校側としては、色覚スクリーニング検査にしても、同意書の配布や回収にしても手間がかかる作業のはずです。でも、私が学校医を担当している6つの小学校は全て色覚検査を実施していますので、眼科医の努力次第で可能なのではないでしょうか。私の場合、健診や会議で学校に出向いた時には、できるだけ先生たちと話をするようにしています。ボーイスカウトや絵本読み語りなど、子供と関わる地域活動にも積極的に参加しています。また、学校や地域からも講話をよく頼まれます。このように、日常診療以外でも学校や地域のたくさんの方々と触れ合う機会が多いことも、信頼関係を築けている大きな要因だと思います。
− 色覚の精密検査の後、結果をどのように伝えるかが難しいように思うのですが、先生はどのような点に気をつけていますか。
鈴木Dr: 実は、児童本人も保護者も色覚異常に気づいていなかったというケースが多いのです。当院の場合では、色覚異常と診断した児童とその保護者の約9割は色覚異常に気づいていませんでした。それだけに、色覚検査表を正しく読めなかったというだけで、本人も保護者も相当なショックを受けているはずであり、「今後の生活や進路は大丈夫だろうか」と不安がり、本当は少しでも安心したがっていることを、我々眼科医はもっと思いやるべきだと思います。だからこそ私は、相談者の表情や様子をよく観察しながら、相手の気持や性格に合った説明、指導を心がけています。
具体的には、「現実の日常社会には、色覚検査表のような掲示物などないこと」は必ず話します。また、色覚異常は色のない世界だと思いこんでいる保護者も少なくないので、「色覚異常もカラフルな見え方だけど、皆とは少し違うこと」も伝えます。その上で、「例え色覚異常の型や程度が一緒であっても、色感覚は個人差があるので、こんな失敗をしたなどと色覚異常の本に書かれている内容を鵜呑みにしないこと」なども伝えます。
眼科医が肝に銘じておくべきは、保護者が知りたいのは色覚異常の一般的知識ではなく、あくまで自分の子供の状況だということです。したがって、どのような色の組み合わせを混同しやすいのか、個別にその子供の色感覚を調べてあげることが大切でしょう。私は、「Color Mate Test」、「先天色覚異常の方のための色の確認表」などを使ったり、黒板に書かれた色チョークの文字を見せて確認したり、色覚異常者が混同しやすい配色表で差異の程度を尋ねたりなどしています。つまり、あくまで本人特有の色感覚を調べた上で指導・相談を心がけています。また、色覚異常に関する遺伝や進路についても少し触れますが、詳しくは当院のホームページや冊子を紹介するなどして、あとでゆっくり知ってもらうようにしています。
− 最後に、地域医療を担っている眼科開業医の先生方にメッセージをお願いします。
鈴木Dr:地域診療に貢献するためには、日常診療はもちろん、地域や学校と密接で良好な関係をつくる努力も大切です。そういう努力が本物であれば、地域や学校は信頼もしてくれるし、協力だって惜しみません。地域医療に貢献するためにも、学校と相談の上、健診で色覚スクリーニング検査を、そして色覚健康相談を実施していただけたらと思います。
− ありがとうございました。
鈴木一作 Issaku Suzuki
1984年 山形大学医学部 卒業
1987年 同大学医学部大学院修了
1987年 同大学眼科助手
1990年 同大学眼科講師
1993年 鈴木眼科 開設
2010年 山形県眼科医会 副会長
専門分野 ぶどう膜炎、緑内障、色覚異常、斜視弱視、心因性視覚障害
CLINIC DATA
- 所在地
- 山形県寒河江市中央1-13-35
- 診療時間
- 8:30~11:30 14:00~17:00
- 休診日
- 木曜日、日曜日、祝日