若手スタッフのための一歩進んだ接遇術 〈後編〉
目上の患者さんへの対応 困った場合の対処法

眼科の若手スタッフの方に、高齢者への接遇でとくに困ったケースをヒアリングしてみると、会話に関わることがほとんど。そこで、接遇・マナーの基本をお伝えした前編(左欄)に続き、後編では傾聴のスキルを使った接遇のポイントをお伝えします。

本来、お年寄りだけを特別扱いしたり、ご高齢患者さんへの接遇”と一括りで考えたりするのでなく、千差万別の患者さん一人ひとりに適切な対応をするのが医療接遇です。とはいえ、お年寄りには、高齢者特有の共通する特徴があります。まずは具体的なケーススタディを通して適切な接遇方法について考えてみましょう。

高齢者への接遇で肝心なのは相手の話をしっかり聴くこと(傾聴)

CASE1いつまで経っても終わらない話

年を重ねると、たくさんの言いたいことを、要領よく整理して伝えることが難しくなるようです。自ずと話は長くなりがち。そんなときには傾聴のテクニック〈繰り返し〉を使います。たとえば「眼がかすむんですね」「チクチクするんですか」と、相手の用いた言葉をオウム返しにしながら、要点を整理していきます。また、患者さんが黙ったとき、「それで、それで」と畳みかけてはいけません。〈沈黙〉は相手にとって大切な思考の時間と心得ましょう。オウム返しをし、併せて沈黙を尊重することで、患者さんは自分が伝えようとしていた内容を咀嚼でき、話の短縮化につながります。それでも話が長引きそうなら、「○○さん、申し訳ありません。もっとお話を伺いたいのですが、次の患者さんがお待ちのようです」という具合に切り上げます。その際のキーワードは、「もっとお話を伺いたい」の一言。あなたのお話をまた聞かせてください、という気持ちをあらわします。もう一つは、「次の患者さんが~」。ご高齢の方は、伝えることに一生懸命で、周囲が見えなくなっている場合があります。他の患者さんも待っているのだとさりげなく知らせれば、ご自分から「すみません」と話を終えることも少なくありません。

CASE2何度も何度も同じ話をする

同じ話を幾度もなさるお年寄りにどう対応したらよいか。そんな質問も若手スタッフからよく耳にします。この場合、「そのお話、前にも聞きましたよ」などと言ったら、そんな話をしたことすら忘れているその方は、きっと傷つくはずです。「この前も聞きました」ではなく、「そうですか」「はい」「それから」とあいづちを打ち、時に大きく、時に浅くうなずきながら、時間が許す限り話を聴きましょう。多忙なときには、CASE1の要領で切り上げます。

CASE3止むことのない質問の波状攻撃

「眼がかすむんだけど見えなくなるんじゃない?」「この検査結果だとどうなるの?」……止むことなく質問を浴びせ続けて、いつまでもスタッフを離そうとしないお年寄りもよくいらっしゃいます。なぜ質問責めにするのか?それは不安だからです。不安を解消する方法としても、傾聴はとても効果的です。人は話を聞いてもらうだけでも、とても安心します。自分がここで話をしていてもいい、ここにいてもいい、と感じられるからです。職分を越えた助言はできないにしても、じっくりと傾聴することは誰にもできるはず。高齢の患者さんの質問には、うなずきやあいづち、オウム返し、沈黙の尊重を交えながら、できる限り応えることが大切(図1)なのです。

遠近両用CLをご提案する
「見る・聴く・まとめる」の接遇術を駆使

次に、「患者さんに有益なのはわかっているのに、どうしてもおすすめしづらい」とみなさんが声を揃える遠近両用コンタクトレンズ(CL)”を例に、これまでご紹介したさまざまなスキルをまとめてみましょう(図2)。

患者さんの仕草や表情をしっかり〈見る〉

遠近両用CLをおすすめすべきなのに、どうも気後れしてしまう……その理由の多くは、「遠近両用=老い」というイメージが根強く、「年寄り扱いするな」と患者さんから言われそうだから。ですが、眼科スタッフは、患者さんのQOVをより良くするという責務を担っているはず。どうか臆さず勇気を出して、患者さんと向き合ってください。そのためには、日頃から患者さんの仕草や表情、態度などを見る(観察する)くせをつけておくことです。たとえば待合室で、眉間に皺を寄せ、誌面を顔から遠ざけるようにして雑誌を読んでいる、問診票を書く際眼を細めている……などの様子から、今のCLが合わなくなってきて、遠近両用をおすすめすべきタイミングなのではないか、と気づきます。そこで、「少しCLが合わなくなっているのではありませんか? 近いものが見えづらくなっているのなら、遠近両用という便利なものもあるんですよ」とアドバイスする気持ちで話しかけてみましょう。

つねに患者さんの生活背景を〈聴く〉

患者さんを見る=観察するだけでなく、傾聴を通して、その人の病歴や家族構成、仕事内容、趣味などの情報を収集することも大切です。患者さんの生活背景を把握することで、おすすめする適切なタイミングもわかるようになりますし、傾聴自体が信頼関係を築くのに役立ちます。患者さんと良好な関係にあれば、あなたの言葉に腹を立てることもないでしょう。また、すでに遠近両用CLを使用している人から、その使用感(メリット、デメリットも)を伺いましょう。そこから得られたリアルな情報を、次に新しくそのCLをご紹介する人にお伝えするのです。こうして情報の引き出しをたくさん持っておくと、患者さんから「この人は知りたいことを的確に教えてくれる」と評価され、それがさらなる信頼につながります。

見て、聴いて、知り得た情報を〈まとめる〉

こうしてスタッフの誰かが知り得た情報は、カルテや連絡票などを使って、院長を含めた全スタッフと共有できればなお良いでしょう。情報共有することで一人ひとりの患者さんに対し、よりきめ細かく、適切な情報提供を行いやすくなります。

最後に、若いスタッフの方にお伝えしておきたいことがあります。それは一度や二度の失敗をおそれないでほしいということ。近年、失敗することをおそれて、何かをする前に自分からブレーキをかけてしまう若い人が少なくないと聞きます。しかし、患者さんの個性は十人十色。ある人には大変喜ばれた対応であっても、別の人からお叱りを受けることもあるのです。つまり100%成功し続けることなど不可能で、時には失敗するのが当たり前。大切なのはその失敗を次の成功のために生かせるかどうかなのです。どうかみなさん、患者さんのため、クリニックのため、そして自分自身のため、失敗から学ぶ姿勢を忘れないでください。

村尾孝子  Takako Murao

(株)スマイル・ガーデン代表取締役
http://smile-garden.jp
明治薬科大学薬学部薬剤学科卒業後、総合病院薬剤部や調剤薬局などで調剤経験を重ね、管理薬剤師として新入社員、後進の育成に尽力。医療系研修会社に転職し、社員教育・研修インストラクターとしての経験を積む。埼玉大学大学院経済学部経営管理者養成コース修了。2009年株式会社スマイル・ガーデンを設立。現在、健康に関わる講演活動や、医療機関向けの接遇マナー研修のほか、さまざまな業種に適応できる体験型セミナー、講演を実施するなど、幅広く活躍中。

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