医療機関の正しい接遇 〈前編〉
失敗をしないための接遇ポイント

接遇とは、本義には「(人を)もてなすこと」。一般の接客業務では、顧客への応接スキルのことです。医療機関の多くが接客業の接遇手法を採り入れているようですが、じつは医療の接遇と接客業の接遇とではその根本からして異なります。「一瞬の出会いで好印象を与えることを主眼にするのが接客業の接遇。長期的なコミュニケーションの過程と捉えるのが医療の接遇」です。

そこで、今号・次号と2回に分け、医療機関に特化した接遇のポイントをご紹介いたします。ぜひ参考になさってください。

「安心+信頼=安全」の提供が
〈医療の接遇〉に求められている

医療の接遇を考える上で、改めてご認識いただきたいのが、「医療者は強者である」ということ。そんなつもりは毛頭ない、と仰る前に、目の前の患者さんを見つめ直してください。病を抱えた患者さんは、あなたが持つ高度で専門的な知識を頼りにやってきているのです。その患者さんが無意識のうちに自分を弱い立場だと感じるのも当然ではないでしょうか。ですから、医療者がごく普通に話しかけているつもりでも、相手は高圧的、高飛車な口調と捉えがちなのです。「私は強者(と思われている)」ということを意識して、注意深く接することが大事です。

また、医療行為には〈安全〉が最も期待されていますが、〈安全〉であることを相手に理解してもらうにも接遇が重要です。何の問題もない、最適な治療であっても、説明が悪いと、相手は「本当に大丈夫なの?」と感じるもの。図①のように〈安心〉の医療を、優れた接遇という〈信頼〉で補強するのが、真に〈安全〉な医療。言い換えれば、あなたの接遇が医療機関そのものの評価にも大きく関わってくるのです。

以上を踏まえ、次に、失敗をしない接遇を、具体例で見ていくことにしましょう。

「眼科クリニックが大困惑!
〈お年寄り〉と〈お子さん〉にはこう接する

眼科医療関係者が接遇面で困っている事例として必ずあげられるのが、「話の長いお年寄り」と「騒いで困る子供」です。

まず話の長いお年寄りに対しては、〈5分ルール〉を適用します。話が始まって5分経過したら、「本当はもっと○○さんのお話をお聞きしたいのですが、これから~をしなければならないので、ごめんなさい」と、丁寧な言葉遣いで切り上げるのです。5分経った頃、他のスタッフに声がけをしてもらうのもよいでしょう。こうした接遇を繰り返すうち、お年寄りも多忙な医療者の立場を理解して、自分から話を切り上げるようになります。

騒いで困るお子さんのケースでは、あらかじめ医療機関内で「どの程度うるさかったら注意・警告するか」との基準を設けておき、基準値を超えて騒ぐお子さんがいれば、その保護者にアプローチします。その際、「うるさいので静かにさせてください」などと言うのは御法度。低姿勢に「大変申し訳ございませんが、テレビの音が聞こえないので(他の患者さんのご迷惑になりますので)ご勘弁(ご容赦)いただけますか」と切り出すのです。この「ご勘弁」「ご容赦」というちょっと時代がかった言葉を使うと、保護者側も、「だったら勘弁してやろう」という気持ちになるから不思議なものです。なお、同じことを2度お願いしても改まらない場合は聞き入れていただく余地がないということ。3回目の注意では外に出ていただく、などの対応もやむを得ないでしょう。

Case Study

患者さんはこんな接遇を気にしている

眼科を受診する複数の患者さんに、「気になる(よくない)接遇」を聞き取り調査しました。以下は、よくありがちな5つのケースです。

Case1 予約の時間を守らない

ある患者さんが、白内障手術に20分も遅刻。クリニック側は「今日は無理。次回の予約を取りましょう」と伝えたのですが……。

この対応では、患者さんは間違いなく気分を害します。ちなみに私がお話を伺った方は、バスの遅延が原因だったそう。携帯電話がなく連絡がとれない、バスは動かない、じりじりしながらやっと受付に着いたのに……「今日は無理」と冷たく言われたら、腹も立つでしょう。医療関係者の接遇で多く見られる失敗が、このように用件のみをダイレクトに伝えること。「申し訳ありませんが」「よろしければ」などの〈クッション言葉〉を身につけましょう(図②)。

Case2 点眼などの指示を守らない

来院前に点眼をしていないと治療ができない、と前回受診時に告げたのに、その患者さんはうっかり忘れてしまい……。たとえ相手が悪くても、クッション言葉を忘れずに。「大変恐れ入りますが、点眼をしていないと、治療ができないのです」と言い、なぜ点眼が必要かきちんともう一度説明してください。言葉だけでなく、仕草や表情でも、「残念そうな」気持ちを表します。患者さんも、点眼してこなかった自分に非があるのはわかっています。

Case3 順番をめぐるクレーム

CL処方や眼鏡処方と、疾患診療とで順番が変わるのは、医療者側にとって常識です。が、患者さんの中には「後から来た人に抜かされた」と感じることが少なくありません……。

たとえ受付近くに、順番が前後することについての説明を掲示していても、「ここに書いてあるように」などといらぬ枕詞は慎むべき。まずは相手が怒っていることに対してお詫びを述べるのが正しい接遇です。その上で、「掲示してありますが、目立たなかったようですね。以降気をつけます」と、掲示への注意も促しましょう。

Case4 説明がわかりにくい?

薬剤やCLなどについて説明を受けたはずなのに、まったく頭に残っていない。これもまた患者さん側からよく聞かれる話。この問題は医療者側の接遇いかんで改善できます。もちろん、「確かに前回説明したはずですよ」などと言わずもがなの台詞は禁物。人間は口頭でたくさん指示されても、すぐに忘れてしまいます。効果的なのは、言葉や文字ではなく、目で見てわかる説明。たとえばイラスト入りのオリジナルの説明書を作るのが有効な手立てです。

Case5 他の患者の病状を聞かれたら?

患者さん同士が仲良しの場合、相手の病状を、受付スタッフや看護師に尋ねてくるケースもよくあること。その際、「個人情報保護法案の関係で、お教えすることはできません」と、拒絶するのはあまりにも杓子定規。その患者さんたちは、濃密な人間関係を、長きにわたって築いてきたはず。ここでの正解は、「大変申し訳ありませんが、私にはよくわからないのですよ」という一言。この人に聞いても無駄だ、と思わせるのが得策です。

これまで述べてきた事例の数々は「些細なこと」かもしれません。しかし、些細なことに日頃からきちんと対処することが、トラブルを未然に防ぎ、患者さんの満足度を高めていくのです。図③は本稿のまとめとなります。次回は、さらにステップアップし、『医療機関の質を高める接遇』について解説いたします。

桑田 美香 Mika Kuwata

エデュ コミュニケーション代表
http://educomi.sakura.ne.jp/
日本大学歯学部歯科衛生専門学校専任講師などを経て、アイディアカウンセリングセンター プロカウンセラー養成コース修了。岸英光コーチに師事し、コミュニケーショントレーニング・コーチング・プロトレーニング修了。長谷川祐子氏によるホスピタリティーマナーインストラクター養成講座修了。2003年エデュ コミュニケーション(旧社名:メディカルコミュニケーション)を設立。ドクター、ナース、医療スタッフのモチベーションアップと、患者満足度の向上を目的に、マナーとコミュニケーション、医療コーチングの講演、研修、セミナーを行っている。

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