「また来院したい」と思っていただくために
~信頼感を自然に醸成するコミュニケーション術~
とても素敵なクリニックだからぜひ次も来院したい、友人知人にも紹介したい……そう思ってもらえる眼科医院になるにはどうすればよいのでしょうか。
たとえ医療技術面で高い信頼を得られるよう日々努力をしていても、患者さんから「何だか感じが悪い」「言葉遣いや態度が横柄」などと思われては、せっかくのがんばりも水の泡。診断・治療の質的向上を心がけるのはもちろん、常に患者さんをどうお迎えし、どう接し、どうお見送りするかを、院長はじめスタッフ全員が追求すること、つまり患者さんとより良いコミュニケーションを構築することが、実は「また来院したい」と思われるクリニックになるための王道です。ただし、小手先だけの接遇テクニックをいくら学習しても、コミュニケーションとはどうあるべきか、その本質を理解していなければ、それでは結局のところ、患者さんと真摯に向き合っていることにはなりません。「良いコミュニケーション」を実現するには、段階というものがあるのです。
そこで、「また来院したい」と患者さんに思っていただける、そんな魔法のようなコミュニケーションのためのステップアップ術を紹介します。
良好なコミュニケーションのための魔法の3段階ステップアップ術
対患者さんに限らず、他人との間で良好なコミュニケーションを築いていくためには、次の3つの段階を踏まえておかなければなりません。第1段階は、「自分自身とのコミュニケーション」。第2段階がチームの中でのコミュニケーション、眼科医院の場合は、「院内スタッフ間コミュニケーション」と言えるでしょう。そして、第3段階が他者とのコミュニケーション、すなわち「患者さんとのコミュニケーション」です。
1st STEP自分を認める、ほめる、自分自身をわくわくさせる!
自分のことを理解しようとしなければ、スタッフの気持ちを把握することも、ましてや初めて来院する患者さんの思いに寄り添うこともできないでしょう。まずは自分自身と向き合い、理解しようと努力し、しっかり語り合うことが大切です。自分自身と良いコミュニケーションをとるために私が励行しているのは、自分自身を認め、ねぎらい、ほめることです。誰しも、自分の中に良い部分と悪い部分があります。反省することも時には必要ですが、「私はだからダメなんだ」と自己否定ばかりしていると、他者と相対する時にそんな悪い自分ばかりが前面に出てきがちです。ですから、「自分は確かにちょっと神経質だけど、約束はきちんと守るし、リーダーシップもある」という具合に、自分を認めてほめるべきです。
「また、自分の中の良い部分を伸ばすためには、ポジティブな自分と対話することが肝心。それこそが本当に自分自身との良いコミュニケーションと言えるでしょう。そのための有効な手立ては、朝目覚めた時と夜寝る前とに、自分自身に質問し、答えることです。それも、決してネガティブではない、ポジティブな質問と答えを。
まずは目覚めの瞬間、たとえば、「これからどんな患者さんとの出会いがあるのだろう」「最初の患者さんをどうお迎えするか」と自分に問いかけ、それに対して「とにかく心のこもった笑顔で接しよう」という具合。寝る前には、「今日一日の素敵な出来事を教えて」と質問し、「初めての患者さんから『ありがとう』と言われた」というように答えます。こうすることで、自分の中の良い部分と対話する習慣がつき、さらにその良い部分を広げられるようになります。
2nd STEPスタッフの良いところを見つめ、それをきちんと伝える!
毎日多くの時間を共に過ごす職場の仲間であるスタッフに対しては、注意していても、剥き出しの自分が出てしまいがち。ネガティブな自分のままでは、他のスタッフから誤解を受けたり、トラブルにつながることにもなりかねません。自分自身とポジティブなコミュニケーションをとることの利点は、自分の良い部分を見つめることで、他者の良い部分を見る癖もつくこと。自分と良い向き合い方をしていると、他人に対しても、この人の良いところはどこだろうかと美点を探すようになるわけです。まずは自分と良いコミュニケーションをとるよう心がけ、次に自分自身以外では最も自分と身近な存在であるスタッフとのコミュニケーションの充実を図っていきましょう。
効果的な具体策として、朝礼や終礼などの機会に、自分が業務上経験したハッピーなことを発表してもらうというものがあります。ヒヤリハット事例を報告し合い、問題意識を共有することも大切ですが、ミーティングのたびに必ず毎回一人が「患者さんに上手にお薬のことを説明でき、喜んでいただけた」といったようなハッピー事例を紹介する。こうすることで、聞き手は相手(発表者、患者さん)がどんな時にハッピーになるのかを理解でき、発表者自身も引き続きハッピーを体験できるよう業務に取り組むこととなります。結果、スタッフ間コミュニケーションは良好に、院内の雰囲気は明るく、風通しの良いものになるはずです。
もう一つ、良好な院内コミュニケーションのためにおすすめしたいのが、医師、看護師、視能訓練士、眼科コメディカル、医療事務などすべてのスタッフが参加しての「ありがとうカード」の導入です。たとえば「さっきはサポートしてくれてありがとう」というように、一日一枚スタッフの誰かに向けて、感謝のメッセージカード(市販の可愛らしい名刺大カードなど)を贈ります。自然に仲間に感謝する風土が院内にできあがり、しかも全員参加なので妙なヒエラルキーも生じません。患者さんが「もう一度来院したい」と思える良いクリニック環境が構築できるでしょう。
3rd STEP気負った接遇やサービスを意識する必要はない!
いよいよ第3段階、最終目標である患者さんとのコミュニケーションです。ところが、この3ステップ目には、タネも仕掛けもありません。第1段階の自分とのコミュニケーション、第2段階の院内スタッフとのコミュニケーションがきちんとできていれば、第3段階の患者さんとのコミュニケーションは自ずとスムーズに進展していくのです。前の2段階がしっかりしていれば、特殊な接遇テクニックを学んだり、新しいサービスを考えたりと気負う必要はないのかもしれません。気をつけるべきことは、スタッフ間のコミュニケーションが良すぎるがゆえに、患者さんを前にぞんざいな口調で会話したり、業務に関係のない話で盛り上がったりすること。あくまでも節度を保った話し方や態度を心がけましょう。自分たちの仕事ぶりを客観的に見つめ、直すべきところはつねに直していく。そんな努力も大切です。
その他、患者さんに好印象を与える言葉遣いや態度の注意点(下図)をまとめておきました。眼科医院だからこそ、自分たちが患者さんの目にどう映っているのか、しっかりと見つめていただきたいと思います。そして、その映り方が素敵なものであるのなら、そこはきっと患者さんにとって、「もう一度来院したいクリニック」にちがいありません。
小島敦子 Atsuko Kojima
感動接客術コンサルタント/プレシャスパートナー代表
1989年から2006年まで全日本空輸株式会社に勤務。グランドスタッフとして接客業務に従事する。併せて、社内人事インストラクターとして、社内人材の教育・育成事業を担当。顧客満足度向上プロジェクトなど制度構築業務にも携わる。2007年からはNLP(神経言語プログラミング・コミュニケーション心理学)や、最先端のコーチング理論であるソリューションフォーカスなどを応用し、企業や大学などで講演、研修、カウンセリングなどを実施している。