患者さんのための安らげる空間を
–今求められる、インテリア医学の実践–

人はリラックスして副交感神経が優位になると、免疫が活性化し、自然治癒力が高まります。そう考えると、病を治す病院やクリニックこそ、患者さんがゆったりくつろげる空間づくりを心がけたいもの。色や香り、音楽など五感に働きかける手法をインテリアに取り入れ、居心地のよい空間を作り上げることで、患者さんの自然治癒力を引き出す――これが私の提唱する「インテリア医学」の考え方です。

インテリア医学で大切なのは、人間的な尺度・感覚にフィットする「ヒューマンスケール」の考え方や、院内の隅々にまで目配りした安全性・快適性の追求です。インテリアというとセンスのよい内装や家具をイメージしがちですが、大金をかけずとも、ちょっとした創意工夫、物の配し方次第で空間のブラッシュアップは可能です。そうしたいくつかのポイントをご紹介しましょう。

院内に自然の息吹、人間味のあるあしらいを

五感のうち、視覚が占める割合は87%にも上ると言われます。インテリアにおいても視覚、とりわけ「色」を意識することが重要です。ファミリー向けの病院なら暖かみのある色味、都会的なクリニックをめざすならシックな配色を選ぶなど、色によってイメージを演出できます。

自然の息吹や人間味を感じさせる「ヒューマンスケール」のアイテムもうまく活用しましょう。観葉植物や魚の泳ぐ水槽、あるいは絵画や書などを設えるだけで、無機質な空間もぐっと柔らかな印象になります。待合室のどこかに、自然光やスポット照明で「明かりだまり」をつくるのも効果的。視線がふと止まって、ホッとできるとともに、空間に奥行き感を出すこともできるはずです。

美観を維持する気持ちと取り組みが大切

一方、どんなにインテリアに工夫を凝らしても、その状態が維持できなくては意味がありません。せっかくの素敵な絵画も、額が曲がっていたり、ほこりが溜まっていたりしては台無し。こうした状況を防ぐために重要なのが、スタッフの意識と効率的な維持管理のしくみです。

私がお勧めしたいのは、「整理、整頓、清掃、清潔、躾」の“5S”の徹底です。その際、スタッフの意識付けのためにも、持ち場ごとに担当者を決めて責任の所在をはっきりすること。汚れや、備品に不備がないか、チェックシートを使ったり、後から比較できる現状の写真を記録に撮っておくのもよいでしょう。とくにバックヤードの管理は、業務効率向上にも関わり、患者さんに質の高い医療サービスを提供する上で欠かせません。

環境は人の心理に大きな影響を与えますが、その環境をつくるのもまた人です。居心地のよい空間をキープし続けようという姿勢。それこそがインテリア医学実践の第一歩なのです。

手作りの家具で美しく見せる、ちょっとしたアイデア

丸見えだったバックヤードをスウィングドアで目隠し

マガジンラック付き本棚で本の収納をすっきり

院内インテリアのチェックポイント

  • 雑誌を読む手元や絵画などに明かりが当たる工夫がされているか?
  • テレビや音楽のボリュームは心地良いか?
  • 庭を眺めることができたり、観葉植物、絵画、水槽を置くなどの工夫がされているか?
  • 患者さんの病院に対する要望をアンケート調査したことがあるか?
  • 子供の手の届く範囲に危険なものはないか?
  • イスの配置は、外気の吹き込みや他の患者さん、受付スタッフの視線を考慮しているか?

5Sがもたらす効果

  1. 整理
    要る物と要らない物をはっきり分けて、要らない物は捨てる
    無駄に使っていたスペースの有効利用が可能に
  2. 整頓
    要る物を使いやすい場所に置き、すぐに取り出せるようにする
    必要な物をすぐに探せて、時間短縮できます
  3. 清掃
    常に掃除をし、きれいにする
    常にきれいな病院は心まで美しくします
  4. 清潔
    整理・整頓・清掃の3Sを維持する
    二次感染の予防につながります

  5. 決められたルールを守る
    スタッフ全員の意識レベルが向上します

乾 真理子 Mariko Inui

ラピス株式会社取締役
http://www.lapis21.com
医療施設専門インテリア
コーディネーター
1級カラーコーディネーター
医療施設専門のインテリアコーディネーターとしての講演活動も展開。著書に「インテリア医学」(鶴書院)がある   

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