ISO9001を取得し、
緑内障の予防・治療で
「ありがとう」が聞ける医院を目指す

香川県坂出市・久保眼科歯科医院

久保眼科歯科医院の久保賢倫院長は、徳島大学医学部眼科学教室で、眼球電位図(EOG)の研究に長年取り組み、世界で初めてクロストーク消去法の開発を行うなど成果をあげてきた。開業後も、現在に至るまで25年以上にわたって同大学の非常勤講師を兼任し、自院経営に加え、研究活動や後進の指導にも力を注いでいる。「4代の教授におつかえでき、その間、EOGの研究で2名の学位授与にも関われたことは本当にありがたいことです」と久保院長は柔和な口調で話す。

2007年に久保院長の医院は、品質マネジメントシステムの世界標準規格であるISO9001を取得している。現在、このISOを持つ眼科診療所は全国で五指に満たず、グローバルスタンダードに則った先進的スタイルが注目を集めているが、「取得以前は、経営面での危機を感じていました」という。

HISTORY

患者減少が続く中で活路を模索

ISOの取得は経営改革の切り札

クリニックの開業は1984年。奥様(久保郁子歯科院長)とともにスタートした久保眼科歯科医院は、10年ほど順風満帆の状態が続いた。しかし、90年代半ばから患者数が減少し、「ピーク時に年間約3,500人だった純新患数が、2004年頃には1,400人弱にまで落ち込みました」

そんなとき、郁子歯科院長が山形県の恩師から経営改革の秘策としてすすめられたのがISO9001取得。ただし、この審査をパスするのは狭き門で、組織体制の見直し、プロセスの明確化、内部監査の実施など、なすべきことが多い。久保院長は、「抜本的に見直さなければ事態は好転しない」と考え、ISO取得と同時に全院リニューアルにも挑戦することとした。

ISO9001では、方針(ポリシー)と目標(テーマ)を掲げることが大前提。久保院長は、「『予防』をポリシーとし、『緑内障の進行予防と失明予防』をテーマに選びました」と語る。

その理由は、「2006年の厚労省報告で、緑内障が日本の失明原因1位となったこと。また米国の研究統計であるAGISを利用すれば、目標が数値設定できると考えたからです」

早速2000年から2006年までの自院におけるAGISのA群(目標眼圧18mmHg未満100%達成群)を調査した結果、その割合がAGISの23.9%を超えた29.9%であることがわかり、「地方の医院であっても、米国の研究施設と比較しても恥ずかしくないことがわかり、これなら地域医療に十分に貢献でき得ると、失いかけていた自信の回復になりました」

さらに久保院長は、坂出市人口統計の分析から今後緑内障の急増が見込まれると確信。このテーマが地域眼科医療の最重要課題と再認識した。

院内組織の見直しなどと並行して、新院の設計・建設も進行。2007年1月10日、ISO9001の審査翌日に、久保眼科歯科医院はリニューアル開院を果たす。

「その2日後に合格の連絡があり、1カ月後に、待望のISO9001認定証が届きました」

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FACILITY

情報保護、医療安全面に配慮した施設・設備

医療サービスの質的向上が主眼

新クリニックでは、施設・設備の随所に患者本位の工夫を施している。

そのひとつが、個人情報保護の徹底。院内には眼科レセプト用、歯科レセプト用、共通文書用、そしてインターネットと4つのネットワークが構築されているが、それぞれケーブルの色を変えるなど、近年問題となっているインターネットからの情報流出に万全の対策をとっている。

また問診室や診察室を個室化して、患者のプライバシーに配慮。「旧院では、独立した問診室を持っていなかった。個室化してみると、情報保護だけでなく、患者さんとスタッフとのコミュニケーションが深まったという利点がありました。出てきた質問や相談から、不安やお叱りの言葉に至るまで、カルテに記録し、日常診療の改善に用いています」

カルテ棚は、白い扉付きで、患者の目に触れないようにしている。また、下三桁の番号順で保管しており、瞬時に取り出せるようになっている。

もうひとつは、医療安全への配慮だ。院内は完全バリアフリー。清潔感あふれる白を基調とした壁面にはシックハウス対策を施し、床材にも環境ホルモンを含まない環境に優しい素材を採用。色覚に障がいがある方が見やすいよう、看板の色使いにも気を配った。全館オゾン殺菌仕様とし、自動蛇口やエアシャワーを設置するなど、感染予防に特段の注意を払っている。

さらに、「患者さん自身が緑内障に関心と知識を持つことが予防に不可欠」と、問診室などに啓発用のポスターを掲出し、中待合に置かれた大型モニターでも、緑内障の病態や診療の流れをスライドショーで映し出す。これらはすべてスタッフの手作りである。

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HOW TO MANAGE

患者の声に耳を傾け、つねに改善を心がける

組織図を作成し責任を明確化

診療面で久保院長が心がけているのは、患者の声に真摯に耳を傾けること。「患者さんの言葉から解決すべき課題が見えてくる」と言う。その通りに同院では、まず「眼圧の説明がわかりにくい」との要望に対し、数値ではなく、色で表現するよう改めた。「眼圧値を緑、黄、赤の3つのゾーンに分け、『今日は黄色ですから、注意信号ですね』という具合に説明します」

『オリジナル三部作』と名付けた患者目線の診療録も独自に考案。緑内障に限らず検査を受けた患者すべてに渡すB5サイズの『今日の検査カード』と、緑内障患者用に来院ごとの眼圧値や日内変動の値を記入した診察券サイズの『治療のきろく』、同じく緑内障患者向けの『緑内障マイカルテ』の3つがそれだ。

『緑内障マイカルテ』はA4サイズ見開きに、初診日からの眼圧の全データを日内変動の形でグラフ化したもの。院長自ら“アクセス”で作成した緑内障管理ソフトを用いて、瞬時に各患者データを印刷できるようにしている。「とても見やすい、わかりやすい」と評判だ。

さらに、2年前から患者の待ち時間を調査・分析するとともに電話での順番予約を推奨。結果、待ち時間は大幅に短縮された。

CL処方においても、患者の気持ちを尊重するという基本姿勢に変わりはない。「初めての方には、まず複数社のレンズを日常生活で使ってもらい、その中からご自身で選んでもらうようにしています。選んでいただいた後、そのレンズの長所について、さらに詳しい説明を加えています」とのこと。自ら選んだレンズなら、自然に責任感が生まれ、ひいてはCL由来の疾患予防につながるとの思いからだ。

また同院では、スタッフ一丸となって自律的に患者本位の医療を推進すべく、ユニークな『組織図』を作成している。品質管理や医療安全管理、文書管理などの管理部門を設置しているだけでなく、待合室相談員をも設けている。テーマである緑内障では、検査・問診・データ入力・データ分析の4部署を設け、診療プロセスを明確にしながら、全員で緑内障と向き合う体制を構築。こうすることで、「誰が、何を、いつまでに、どのようにやればいいのかはっきりします。無駄な動きがなくなり、患者さんとのコミュニケーションに使える時間が増えました」

そうして得られた患者の声が、さらなる改善に活かされていく。
「あえて明文化しなくても各人が役割や責任、権限を理解していると思い込んでいましたが、実際に作ってみて、その効果に驚きました。『組織図』導入はぜひともおすすめしたいところです」

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POINT OF VIEW

ISOの取得をバネにさらに向上していく

緑内障の予防と治療で「ありがとう」が聞ける医院を目指す

ISO取得から4年目。久保院長はその効果について、「第一に、減少の一途をたどっていた患者数が増加に転じました」と語る。とくに、『オリジナル三部作』などを用いた丁寧な診療が功を奏してか、毎月定期的に検査、診察を受ける緑内障患者が増加中だ。

AGISのA群の割合を指標にした、緑内障進行予防に関しても、着実な前進が見られている。

何よりも目覚ましい変化は、「スタッフ全員のスキルとモチベーションが飛躍的に高まったこと」である。

ISO9001では、取得後も毎年1度の審査で改善すべきところが指摘され、それを踏まえて3年に1回の本審査が行われる。重視されるのは、スタッフの自主的な取り組みだ。

院長は、セミナーや学会への参加を促し、そこで得た知識を共有できるよう仕組みを整えた。さらに学校や高齢者施設での健康教室など地域への啓発活動もスタッフが主体的に運営。もちろん3年目の本審査はクリアした。

「ありがたいことがもうひとつあります。スタッフが辞めないことです」と、院長が言うように、10年以上のベテランがほとんどで、開業時からの職員も。そのきびきびと無駄のない動きや心底の笑顔は、患者の信頼と満足を深めている。

今後の目標は?という問いに対して久保院長は、「つねに患者さんに寄り添い、とくに緑内障に関する予防と治療で、ひとりでも多くの患者さんから『ありがとう』の言葉を伺えるようにがんばりたい」と即答した。最新の三次元のOCTもいち早く導入し、大学病院並みの設備で緑内障の進行・失明予防に尽力する。ISOという踏み切り板を使ってステップアップした久保眼科歯科医院は、「つねに改善」を合い言葉に、地域眼科医療の“光明”として輝き続けることだろう。

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MESSAGE

ISO9001の取得はどの眼科診療所でも挑戦する価値がある

日本全国の眼科クリニックが、患者さん本位の日常診療に邁進し、同時に医療安全やスタッフ教育、地域啓発活動に取り組んでおられることと思います。こうした一つひとつの活動を有機的にまとめて、効率よく運営するシステムが、ISO9001。とくに白内障の手術をされているところでは、絶えず継続的な改善をなされておられるわけですから、その取得は難しいことではなく、多くの眼科診療所で可能です。久保眼科歯科医院では、スタッフのやる気と技量、患者さんの満足度が高まり、患者数も増加するなど、医療の質と経営の両面において大きく改善されました。今後も全員一丸となってこのスタイルを磨き上げながら、つねに進化し続けたいと思います。

久保賢倫 Masanori Kubo

1974年徳島大学医学部卒業、眼科学教室に入局。同講師、視能訓練部副部長を経て、1984年香川県坂出市に久保眼科歯科医院を開業。2007年1月、隣地に新しい診療所をリニューアルオープンし、同時にISO9001を取得、現在に至る。坂出市医師会理事、坂出市学校保健委員会副会長、徳島大学医学部眼科学非常勤講師も務める。

CLINIC DATA

診療内容
診療内容:眼科治療一般、緑内障予防・治療、コンタクトレンズ処方など
所在地
香川県坂出市江尻町1149−2
診療時間
9:00~13:00 14:30~18:00(土曜は17:00まで)
休診日
日曜、祝日、木曜午後
スタッフ
13名(医師1、視能訓練士兼看護師1、看護師4、検査助手4、事務職3)
外来患者数
約80名/日
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