“患者はもちろん、スタッフにもやさしい”
地域眼科医療のベースキャンプ

大分県大分市・大塚眼科医院

大塚眼科医院の大塚慎一院長は、いったんは熊本大学の工学部に進んだものの、2年次後期に中退し、改めて医学を志した。自ら言うように「少々回り道をした」経歴の持ち主だ。眼科を選んだきっかけは、医学部在学中に所属していた軟式テニス部の練習中に、網膜剥離を来したこと。2度の手術を経て完治した際、当たり前に見えることの素晴らしさを再認識し、眼科医療こそ自らの進むべき道だと決意した。

自分が患者であったときの苦しさを決して忘れず、つねにどうしたら目の前の患者さんに満足してもらえるか考えながら、日々たゆまずクリニックを進化させていく……それが大塚院長のモットー。言うは易くとも、これを現実とするには、営々とした努力と忍耐が必要とされるが、「回り道をしたせいか、忍耐力には自信があるんです」と、人好きのする笑顔を見せる。

HISTORY

開業、増築、新築… すべては患者のため

さまざまな医療機関を見学しスタッフの意見も採り入れる

「もともと開業するつもりは毛頭なかった」という。気持ちが変化したのは、眼科部長として国保総合病院に勤務していた頃だった。

「同病院では私の着任と同時に眼科が新規開設され、たいへん多くの患者さんが訪れるようになりました」

膨大な患者に真摯な対応をするにはどうすればいいのか、主体的に考えてみたい。そんな思いがわき上がってきたとき、「開業」という二文字が自然と脳裏に浮かぶ。1990年、大分市田中町に8つのベッドを備える大塚眼科医院を開業した。

周囲に眼科がなかったせいもあるが、何より勤務医時代の院長の評判を聞ききつけた患者が押し寄せて、開業初日に来院患者数97人を記録。100人を突破するのに時間はかからなかった。

多忙を極める日常診療の合間を縫って、院長は、眼科医院だけでなく、内科、産婦人科、総合病院など全国の医療機関を見学し、「患者さんのためになるシステムや設備、工夫があればできる限り採り入れました」

外からだけでなく、内から学ぶ姿勢も不可欠と考える院長は、スタッフの声にも丁寧に耳を傾け、働きやすい職場環境作りに腐心してきた。

「スタッフが楽しく、有意義に働ける職場でなければ、患者さんに喜んでもらえるはずはない」からだ。

やがて、増え続ける患者はついに外来待合室からあふれ出し、階段に座り込むまでにふくれあがる。1日平均来院患者数は170人に達し、時には200人を超えることも。待ち時間は優に2時間を超えていた。

「このままでは、大塚眼科を信頼してくださる患者さんに申し訳ない」と、抜本的な改革を考えた院長は、隣接する駐車場部分に医院を新築移転することを決意。2009年5月、総床面積約2100㎡、旧医院の3倍強の広さとなる新生・大塚眼科が誕生した。

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FACILITY

患者だけでなくスタッフにも配慮した設計

心地よく過ごし、働ける、すべての人に“やさしいクリニック”を

独特な透明感をたたえる結晶化ガラスで覆われた外観が、医療機関というよりむしろシティホテルを彷彿させる。白を基調とする洗練された佇まいが印象的な新しい医院は、「私やスタッフが培ってきたノウハウを注ぎ込みました」という通り、美しいだけでなく、創意に満ちあふれている。

エントランスは、車椅子でも楽々通れるよう大きく開閉し、そこからロビーに至る部分を、冷暖房、トイレを完備した風除室とした。ロビーの扉が開く受付開始まで、患者が快適に過ごせるようにとの心遣いである。

待合ロビーは1階から2階までの吹き抜け構造となっており、天然大理石を用いた螺旋階段がオブジェのような存在感を示す中、天井部に備えられた開閉式のドームから、柔らかな陽光が降り注いでくる。受付や検査エリア、コンタクトエリア、5つある診察室、暗室、廊下からトイレに至るまでがゆったりと十分な空間をとって構成されている。1階には絵本や液晶テレビが設置された床暖房完備のキッズルームや、欧風のパテオを望めるカフェテーブルなども配された。

2階には、スタッフステーション、手術室、家族待合室、7床の個室ベッド、患者用浴室、リカバリールームなどが回廊式にぐるりと配置され、そのバックヤードには常勤医師(院長のほか、現在1名)の医師室、会議室などに加え、スタッフ専用ラウンジまで設けられた。

「たとえば暗室では、各機器を遮光カーテンで仕切り、各スペースに空調と照明を設置しています。より円滑で信頼性の高い検査が実現できました」というように、贅沢とも見える施設・設備のすべてに、“患者への思いやり”という確かな理由が存在する。

また、スタッフ専用ラウンジには、疲れた身体を休め、リフレッシュできるよう、畳敷きのスペースを用意。こうした“スタッフへの思いやり”も随所に見受けられるのが大塚眼科の大きな特徴だ。ただし「院長室は小さめです(笑)」

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HOW TO MANAGE

高い専門性を追求しスタッフ全員のスキルも磨く

スタッフのやる気アップで患者満足度も向上する

診療において大塚院長が追求しているのは、眼科領域全般にわたる高度な専門性だ。自身は、年間約1500例の白内障手術を施行するこの分野のエキスパートだが、緑内障、角膜、網膜など各分野の名医を全国から招聘し、専門外来も定期的に開設している。提携する専門医は約20人。さまざまな眼科疾患で苦しむ地域の患者に日本最高レベルの医療を提供するのが目的だ。

一人ひとりの患者にきちんと納得してもらえるまで説明をするのも大塚眼科流。糖尿病などを合併しているケースや、加齢黄斑変性など失明の危険もある重篤な患者に対しては、特別に用意された相談室で、看護師らがオリジナルのパンフレットやさまざまな資料を使って、疾患概要や治療法などを正しく理解してもらえるように努めている。

「こうした診療方針を維持できるのも、全国のドクターや当院スタッフの協力があってこそ」と語る大塚院長。「スタッフは家族のようなもの」というのが口癖だ。

1990年時点で8人だったスタッフは、2010年1月現在30人。事務職6人、視能訓練士8人、看護師10人、検査技師6人という手厚い陣容である。

大塚眼科では月に一度、眼科疾患などに関する勉強会を院内で実施。接遇面の改善を目指したミーティングなども随時行っている。専門外来ごとに職種別チームを編成して、それぞれの分野のスキルアップも図っているという。

「関連学会や、他の医療機関を見学する際も、スタッフを同行します」

新しい知識と技術を吸収することで、スタッフのやる気も高まり、ひいては患者満足度の向上にもつながる。事実、さまざまな新しい施策もスタッフの発想から生まれることが多いそうだ。

「たとえば、誕生日に受診された方にブーケをプレゼントしたり、雨の日に貸し出しタオルを用意したり。患者さんへの症例説明に使用するオリジナルの疾患説明書もスタッフが作成し、私が監修しています。小さなことかもしれませんが、スタッフが日頃患者さんときちんと向き合っていなければ思いつかないことばかり」

フロアマネージャーの設置もそのひとつ。つねに診察室と待合室の状況を確認しながら、患者の体調や挙動に目配りし、その不安の解消に努める、いわばコンシェルジュ的役割である。

無駄のない連係プレーをサポートするため、インカム(小型無線機)を導入しているのも特筆すべき点だ。

「新築以来、スタッフ全員がどこにいてもインカムで連絡が取れるようにしています。受付から検査、診断、治療、会計までの流れがスムーズになりました。医療機関の規模にかかわらず、非常に有効なツールだと思います」

ほとんどが10年以上勤務しているベテランで、開業時から、というスタッフも多い。そのきびきびとした動き、笑顔を絶やさぬ穏やかな接遇は、患者・家族から好評を得ている。

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POINT OF VIEW

現状に甘えずつねに前向きに

患者満足度の向上のための施策にゴールはない

新築移転から1年足らず。大塚眼科には全国から医療関係者が訪れるようになった。たとえ見学する側からされる側に立場は変わっても、開業時の初心、日々たゆまず進化を目指す院長の姿勢に変わりはなく、「他の医療機関の良いところをまだまだ吸収し続けていきます」

また、近々もう一人常勤医師を増やす予定で、これにより日常診療のさらなる底上げを図るそうだ。

「眼瞼下垂や涙道内視鏡など、他があまり取り組んでいない分野にもより一層力を入れていきたい」と、意欲的である。

スタッフ教育の面でも、これまで以上に密なコミュニケーションを取りながら、一人ひとりのポテンシャルを高めていきたいという。とりわけ視能訓練士が眼科医療に果たす役割を重要視している院長は、「近い将来、視能訓練士の研究会を立ち上げたい」と、熱っぽく語る。

「高い意識と技能を持つ視能訓練士と医師が協働すれば、QOV向上に寄与できるはずです」

現状に決して満足することなく、たえず前を見据える。

「ゴールはありません。ただ一歩ずつ進むのみ」と語る柔和な表情の中には、力強い意志と忍耐力がみなぎっていた。

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MESSAGE

患者さんのために何ができるか。日々、創意工夫を繰り返すこと

限られた規模の中でも、患者さんの満足度を高めるために工夫を凝らすことは可能です。どうすれば患者さんの訴えをうまく引き出すことができるか、何をすればスタッフはやる気を高めてくれるか、待ち時間を減らすために何かできることはないか……。斬新なアイデアは、規模の大小にかかわりなく、日々の向上心と努力とから生まれてきます。大塚眼科は新築したからといって、現状に甘んじるつもりはありません。理想とする医療を実現するため、日々スタッフとともに進化し続けていく。その姿勢こそが、真に患者さん本位の医療へとつながるものと、私たちは確信しています。

大塚 慎一 Shinichi Otsuka

1979年久留米大学医学部眼科学教室入局。宮崎県立日南病院、大分県緒方町国保総合病院眼科部長を経て、1990年大分市に医療法人大塚眼科医院を開業。2009年5月7日およそ3倍規模の新診療所を隣接地に新築し、現在に至る。日本眼科学会認定眼科専門医。

CLINIC DATA

診療内容
眼科治療一般、手術(白内障、網膜・硝子体、緑内障、角膜移植、眼瞼下垂・眼瞼内反など)、眼鏡処方、コンタクトレンズ処方など
所在地
大分県大分市田中町8-2A
診療時間
8:30~12:30、14:00~18:00 (月・火・水・金の午後は手術日)
休診日
日曜、祝日、木・土午後
スタッフ
30名
外来患者数
約173名/日
年間手術件数
約210件/月
   
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