自分の納得できる医療を
続けることが“成功”への道

東京都武蔵野市・ひぐち眼科

 「凄腕の医療経営コンサルタントがやってきて、『患者さんの数を今の2倍にしてあげましょう』と申し出ても、私は丁重にお断りいたします」と、ひぐち眼科の樋口裕彦院長は控えめながら人好きのする笑顔で語り始めた。「自分が診られる患者さんの数には限界があります。それを超えると、待ち時間が増えるか、スタッフが疲弊するか、あるいは診療の質が落ちる。患者さんにとっても、クリニックにとっても、そこで働く者にとってもいいことなしですよ」

MEANING OF SUCCESS

求める医療の実現こそが真の成功

患者数の増加だけを求めず医療の質を高めていく

武蔵野市吉祥寺でひぐち眼科が開業したのは1999年のこと。2004年5月には、現在のビルに移転したが、経営は最初から順調だったわけではない。

「東京のビル診療所の場合、安定した経営のためには、週5日診療で、一日50名くらいの患者さんが必要。それが移転当初は10名そこそこで、2年間くらいずっと大赤字でした」

その後、徐々に患者が増えていき、現在では一日約60名が来院するようになった。さらなる患者獲得も十分見込めるところだが、もともと、冒頭の言葉にあるように、樋口院長には、“多くの患者数=成功”という観念がない。「スタッフを養うことができ、私の家族が食べるに困らないだけの収入があればいい」と言う。「何より自分の納得できる診療を行えて、患者さんの満足感が得られれば、私にとっては成功です。その意味では、まずまずのサクセスと言えるかもしれません」

納得できる診療とは? と問いかけると、「禅問答のようですが、納得しないこと、でしょうか」との答え。

「今の診療レベルに満足して、納得してしまったら進歩の道は閉ざされてしまいます。私も含め、スタッフ全員が『満足してはいけない、昨日よりも今日、今日より明日、着実にレベルアップしよう』を合い言葉にしています」

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CONCEPT

ひたすら誠実な診療を日々実践

患者の求めていることを十分な診療時間を取って探り出す

クリニックのコンセプトについて、「誠実な診療、ということに尽きます」と、きっぱり。そのために、いつもしっかり患者の声に耳を傾ける。「できるだけ時間を掛けて、お話しすることが第一」なのだという。

患者の年齢層は幅広いが、比較的多いのが高齢者の割合。症状の訴えを聞いて医師としての仕事を果たすだけでなく、折々の出来事など、直接診療とは関係のない事柄にも耳を傾ける、患者の身内のような役割も求められる。混雑していて十分話を聞けないときには、スタッフがカバーするようにしている。

「悪天候の日にはお年寄りや足の不自由な予約患者さんにこちらから電話をして、検査日時の変更をお勧めするなど、負担を少なくするようにしています」と、繊細な心配りも忘れない。

受付ロビーには、色とりどりの海水魚が泳ぐ水槽や冷水器が設置されているが、これも、待ち時間を心地よく過ごしてもらうための配慮である。

しかし樋口院長はあくまでも謙虚。
「行き届かないところはまだたくさんあるので、患者さんの声に耳を澄ませながら、改善するよう努めています」

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HOW TO MANAGE

信頼の医療を提供すべく、常に一歩先を目指す

学会や研修に参加し、ひたむきに医療技術を磨く

“誠実な診療”を体現する上でベースとなるのは、医療技術の錬磨であり、そのためには不断の努力が欠かせない。これこそが、院長の考える“納得のできる診療”へとつながっていく。

そのため、時間をやりくりしながら、学会での発表に取り組んでいる。地域の地方会や日本コンタクトレンズ学会など関連学会で、年に2回程度の発表を自ら課しているという。研究意欲を維持することで、診療へのモチベーションも高まるからだ。

5年ほど前からは、月に1度のペースで「コンタクトレンズ診療に関して、私が日本一だと思っている先生のところへ研修に通わせて頂いています」

そこでは、円錐角膜の診療において、どこをチェックしながらレンズを決定し、カーブを変えていくかなど、微妙なさじ加減を実地で学んでいる。「その道の権威の手技を実地体験し、患者さんに活かせるのは本当に恵まれたこと」だという。

地域医師会での活動も、院長にとって自己錬磨の場となっている。所属する武蔵野市医師会で複数の委員を兼任し、忙しさは増しているが、「勤務医時代には密接だった他科の先生との交流が、開院すると希薄になりがち。医師会でさまざまな先生と接することで、眼科に必要な他科との連携も円滑になります」と前向きだ。結果的に内科医院などからの紹介患者も増加傾向にある。

あくまで謙虚に、自らの診療技術を磨いていく姿勢。それが地域や患者からの信頼獲得につながっている。

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STAFF

スタッフメイクは医療サービスの大切な要

余裕のある人員配置が患者満足度を高める

ひぐち眼科のスタッフ数は常勤6名、非常勤3名。一日当たり患者数が60名規模のクリニックとしてはきわめて手厚い陣容だ。さらに、「いい人がいれば随時紹介してください、と各方面に声を掛けています」その理由は、「人手が足りないと、迷惑するのは患者さんだから」

逆に人手が十分であれば、休みが取りやすいなど、スタッフ一人ひとりのアドバンテージにもなる。勤めやすい職場環境であれば、働く側に余裕が生まれ、患者への接遇も良好になる。

「現実問題として、人件費はかかりすぎ(笑)。でも、これこそ本当の意味の“必要経費"ではないでしょうか」

もちろん量的に充実していても、問われるのは中身、スタッフの質である。ひぐち眼科では、視能訓練士が4名、ほか全員が眼科コメディカルの資格を備えている。

採用にあたって特別な試験を実施するわけではない。特別な接遇マニュアルを用いたり、講師を招いて講習を行うこともない。朝のミーティングでは、挨拶や笑顔の徹底を促すくらい。

「細かい指示を出さなくても、みんな床が雨で濡れていればきれいに拭くし、患者さんの荷物を持ってあげたり、足の不自由な方の手を引いたり、ごく自然に患者さんのために行動しています」

患者から「みなさん優しくて素敵ですね」と言われることも少なくない。

「求めているのは、現状に満足しないでほしいということだけ。優れたスタッフがみんな辞めないで残ってくれているのが、私の自慢ですね」

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POINT OF VIEW

医師一人の力でクリニックは成り立たない

患者をはじめとする“人”とのつながりを第一に

奥様である倫子夫人も視能訓練士。非常勤として週に2回勤務しているが、実は、ヒューマン・ケア科学の博士号を持ち、筑波大学大学院の研究員でもある心理カウンセリングの専門家だ。

「患者さんの中には眼科疾患に加え、心の問題を抱えている方もおられます。そんなときに、エキスパートとして関わってくれるので助かります」

たとえば、近視になった小学生の女の子が「眼鏡は絶対イヤ、コンタクトレンズにしたい」と来院したときのこと。倫子夫人は眼鏡を掛けたくない気持ちを共感的に受け止めてから、まずは家で眼鏡を掛けてみる、次に学校の門まで、という具合に目標を設定して、徐々に眼鏡に対する嫌悪感を払拭していった。こうした努力が診療報酬に加算されるわけではない。しかし、「眼鏡をつくらなければコンタクトを処方できない、と突っぱねるだけでは患者さんの心の問題は解消されません。私のところを訪れた方には、やはりここに来て良かった、と感じてほしい」と、樋口院長は穏やかな口調ながら力を込めて語る。

最近になって、待ち時間を減らすための具体策も開始した。

スタッフを1名、診察室の中に入れ、医師の指示のもとに点眼を行ったり、検査の順番を決めるなど、クリニックの司令塔としての役割を持たせることにしたのだ。これにより、待ち時間が短縮され、「もう少しくらい患者数が増えても、医療の質を維持できる」ようになった。「私一人で手が回らないところは、妻を含めたスタッフのみんなが補ってくれます」と微笑む。

「当院に患者さんを紹介してくださった医院や医師会の先生方、研修を引き受けてくれた師匠、スタッフのみんな、そして患者さん、こうした“人”の力に支えられて、ひぐち眼科の今があります。これからも人を大切に、地道に、しかし着実に進歩していきたい」とかみしめるように語る樋口院長。本当の成功の理由は、愚直なまでに真面目に“人”と向かい合うその人間性に秘められているのかもしれない。

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MESSAGE

真面目が一番! 評価はあとからついてきます

学会発表をし、自ら進んで研修を受け、医師会の仕事もこなすなど、つねに自身を磨くように心がけています。これはひぐち眼科を繁盛させるためではありません。自分に十分な能力がなければ、患者さんのためになるどころか、迷惑をかけることになるからです。だから私はひたすら真面目に医療と取り組んでいます。近隣の先生方が患者さんを紹介してくださったのも、素晴らしいスタッフに恵まれていることも、患者さんからそれなりの信頼をいただいているのも、真面目にこつこつとできることを積み重ねてきた結果。これからも真面目をモットーに診療内容の充実に力を注いでまいります。 

樋口裕彦Hirohiko Higuchi

1985年北里大学医学部眼科学教室入局。
米国Environmental Health Center-Dallas留学、
北里大学医学部眼科学教室非常勤講師などを経て、
1999年武蔵野市吉祥寺にひぐち眼科を開業。
2004年移転し、現在に至る。医学博士。
杏林大学医学部非常勤講師(医学教育学)、
東多摩眼科医会会長なども務める。

CLINIC DATA

診療内容
眼科診療一般、眼鏡処方、コンタクトレンズ処方
所在地
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4階
診療時間
10:00~12:30 (再診は13:00まで) 
15:00~18:00 (再診は18:30まで)
休診日
木曜・日曜・祝祭日
スタッフ
常勤6名、非常勤3名
外来患者数
1日平均約60名
   
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