患者さんと心が通い合う診療
頼れる”家庭医”をめざして

愛知県春日井市・あまの眼科クリニック

「僕、大きいね。いくつになるの?」
「学校は楽しい? お友達と遊んでて、困ったりすることはないかな?」

あまの眼科クリニックの診察室からは、患者の男の子と天野喜仁院長のくつろいだ会話が聞こえてくる。患者さんがお年寄りなら、お孫さんの受験や嫁姑問題に話が及ぶことも。問診以外にも、患者さんの日常生活を知る会話も心がけているという天野院長。その思いをこう語る。

「不安に感じていることを全部打ち明けられる患者さんは、じつはそう多くないと思うのです。何げない会話をきっかけに自覚していなかった不便や不安に気づくこともあります。そのためには話しやすい相手と思ってもらうのが第一歩です。僕はすべての患者さんを『自分の家族』と思って診察にあたっています」とやわらかな笑顔を見せる。

気になる患者さんがいたら、看護師に「不安やわからないことがないか確認してみてね」と念を押すことも忘れない。小さなクリニックだからできる細やかな気遣い。会話を通じて患者さんと同じ目線に立つことを意識し、患者満足度を高める診療をめざしている。

HISTORY

道を見失ったとき、めざす医師像が見えてきた

「憧れ」から「覚悟」へ医療者としての原点に立つ

天野院長は、1993年、理想を胸に藤田保健衛生大学の門をくぐった。医学生として学びを進める中で、強く惹かれたのは「眼科」だった。

「保衛大は眼科が先進的で、私の在学当時から世界屈指のレベルでした。
 超音波水晶体乳化吸引術は日本トップクラスの症例数、網膜硝子体や白内障の専門外来もいち早く設置し、眼科専門医を養成する研修施設もあります。目の前ですごいスピードで発展していく眼科領域に大きな魅力を感じました」

6年生まで順調に研鑽を重ねたものの、国家試験を目前にして、医師になることに突如として迷いが生じたという。

「今思い返せば現実逃避だったのだと思います。どういう医師になりたいのかイメージが湧いてこなかった」

鬱々とした日々を送っていたとき、手がさしのべられた。心配した知人がつてをたどり、作家・伊集院静氏からメッセージをもらってきてくれたのだ。著書を擦り切れるほど愛読し、尊敬してやまなかった伊集院氏の手紙と色紙を手にして心が震えた。色紙には、軽やかで温かみのある毛筆で『人の為に峰を目指す 男子の本懐』としたためられていた。その言葉に強い衝撃を受けた。

「それまで私は自分の憧れを追うことしか考えていませんでした。伊集院氏の言葉によって、人の役に立てる人間になれること、それが医師という仕事の醍醐味だと気づかされたのです」

医師になる覚悟と気概が湧きあがってきた瞬間だった。

「あの苦しい時期があったから、医師として謙虚な気持ちが芽生えたのだと思います。このときの経験が今も僕の治療の原点になっています」

医師となってからは、総合病院や大学病院を経て、中津川、新城、豊川の市民病院など、地域に密着した病院で診療にあたってきた。

「地方の病院ではあらゆる症例を一人でこなさねばなりません。そのかわり患者さんとの距離も近い。白内障の超音波水晶体乳化吸引術や緑内障のレーザー治療など、多岐にわたる技術を磨きつつ、患者さん一人ひとりとじっくり向き合う、今のスタイルを確立していきました」

3年前に結婚したことをきっかけに、地域に根をおろして、クリニックをつくることを決意する。

開業の地を考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは故郷の春日井市だった。自分が生まれ育った愛着ある土地で、家庭医として長いお付き合いをする。それが医師になってから身を投じてきた地域医療の理想形だと感じたのだ。

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FACILITY

患者さんを迎え入れるシンプルで清潔感ある“静の空間”

おもてなしと安心を提供するクリニックづくり

2011年5月に開業したばかりのクリニックは、春日井市の中でも市役所や学校、店が集まる地域にあり、車で移動することの多い地域住民に至便な、県道25号線沿いに位置する。前庭に広い駐車場を擁し、ライトグレーとホワイトを基調としたシンプルな平屋の建物がひときわ存在感を放っている。

エントランスをくぐると、天井の高い待合スペースが広がり、外からやわらかな光が降り注ぐ坪庭を望む。坪庭によって県道からの騒音や視線がシャットアウトされ、庭の植栽を静かに眺められる癒しの空間となっている。小さな子供のために、靴を脱いでくつろげるプレイスペースも確保した。座り心地のいいソファが置かれたリカバリー室も、外に坪庭を配しており、手術前後の緊張を和らげ、リラックスできる場所となっている。

手術室には大病院でも使われる抗菌性の高い壁や床材を用い、クリーンルーム用の空調システムを設置した。暗室では患者さんに圧迫感を与えないよう、天井に明るめの照明と低騒音の空調を取り入れるなど、随所に工夫が凝らされている。

「診察や治療にあたるスペースは衛生面と実用性に配慮し、患者さんが待ち時間を過ごす場所はもてなしの場としています。全体として、シンプルで清潔感のある”静の空間”をイメージしました」

余計な飾りや色彩は排除して、ダークウッドやスレートなど自然素材をアクセントに配している。主張し過ぎない空間演出で患者さんが時間を忘れてくつろげる場になっている。

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STAFF

徹底した検査体制と質の高いスタッフで差別化を図る

スタッフが専門性を発揮し、切磋琢磨し合える仕事環境

現在、クリニックでは天野院長の他、8名(看護師1名、視能訓練士3名、受付4名)が常勤スタッフとして活躍中だ。

「勤務医時代から付き合いのある優秀な人材も来てくれています。クリニックが順調に伸びているのも、スタッフのおかげ」と誇らしげに語る。その理由はスタッフの専門性の高さ。検査はすべて視能訓練士が担当するのが基本方針だ。

「とくに小さいお子さんの場合、自分の視力の状態を適確に伝えられません。視能訓練士なら通り一辺倒の検査ではなく、ゲーム的な要素を取り入れるなどしながら、スムーズに検査を進められます。また、脳の疾患などに関する知識も有しているので、患者さんの病気を見逃す確率も低くなると考えています」

さらにスタッフの知識向上を図るべく、月に1、2度、院内勉強会を開く。天野院長が最新の手術や療法をレクチャーし、新たな情報を吸収してもらうとともに、スタッフが順番で本を紹介する時間も設けている。接遇や心理学などそれぞれ関心のある分野から本を選び、その内容や感想を伝え合うものだ。

「僕が上から命令するのではなく、同じ目線にあるスタッフ同士で、気づいたことや学んだことを共有することで、自ずと各人の意識は向上し、結束力も強まります。それが院内の診療の質や患者サービスの向上にもつながる。勉強会はスタッフの切磋琢磨の場であり、そうした好循環を生む場でもあるのです

実際、スタッフのみなさんは常に笑顔を絶やさず、ハツラツと患者さんに接している。スタッフ一人ひとりの能動的な姿勢、チームワークのよさから生まれるあたたかな雰囲気が、このクリニックならではの居心地のよさをもたらしている。

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POINT OF VIEW

技術力×人間力で患者さんを支える“地域のお医者さん”に

患者さんの安心も治療の一環思いを行動で伝える

診察室での天野院長は、ニコニコと笑顔を絶やさず、張りのある明るい声で患者さんに話しかける。

午前中に手術を済ませた火、金曜日は昼休みに手術着からスポーツウェアに着替えて周辺を30分ほど走る。

「手術モードから診察モードに気持ちを切り替えるためです。眉間にしわを寄せた顔で午後の診察に出るわけにはいきませんから」

健康的に日焼けして活力あふれる天野院長には、患者さんを元気にするパワーがみなぎっている。医師の表情や声色は、患者さんの心のありように大きな影響を与える。だからこそ、日頃から自分自身のコンディションにも気を配る。

手術のあった日は、必ず患者さん宅に電話を入れて、経過や体調を確認してその日の仕事を終える。

「入院施設のある病院にいたときは、患者さんとごはんを一緒に食べたり、1日に何度も病室に顔を出したりして様子を見守っていました。今は日帰りなので、電話でお話しして、患者さんの様子を確認しています」

医師が何百回と成功してきた手術でも、患者さんにとっては初めての経験。些細なことも不安に感じるものだ。電話で様子を確かめたり、アドバイスするだけでも患者さんの安心度は高まるという。

また、診察の際には、2か月ごとに発行する『あまの眼科通信』を手渡している。老眼や近視、白内障などの解説、患者さんからのQ&A、スタッフ紹介、目にいい料理レシピなどバラエティに富んだ内容で、楽しみにしている患者さんも多い。

「これも患者さんに親しみをもっていただく工夫の一つ。有益な情報を提供するとともに、開院間もない僕らの自己紹介も兼ねているんです」

さらに、診察中の何げない患者さんの言葉から得た気づきをノートに書きつけて、記事や院内運営のヒントにもする。こうして書きためたノートは3冊に及び、折りにふれて読み返している。

開業医として歩み出してから1年。医療者としてだけでなく、人としても信頼を得て、全人的に患者さんを支える医療をめざし、実践してきた。

「この1年を経て、開業医に必要なのは技術力×人間力だと実感します。技術力はもちろん、もっと人間力を磨いて、患者さんの身近な存在となっていきたい。謙虚と誠実の心をもちつづけ、生涯のお付き合いができるクリニックとして、地域に溶け込んでいければと思っています」

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MESSAGE

情報ツールや会話を通して
医師やスタッフの顔が見えるクリニックにしたい

開業してまだ日の浅い当院ですが、通院してくださっている患者さんたちの口コミの力に後押しされて、地域での認知度が少しずつ高まってきていると感じています。診察だけしていればいいという、そっけない対応では患者さんの印象には残りません。診察の中にも”会話”を心がけ、スタッフの紹介ボードや『あまの眼科通信』などのツールを活用して、患者さんの心に届く診療活動を意識しています。

天野喜仁 Yoshihito Amano

1999 年藤田保健衛生大学病院眼科学講座入局。中津川市民病院、あいち小児保健医療総合センター、藤田保健衛生大学病院を経て、新城市民病院眼科医長、豊川市民病院眼科副医長、東濃厚生病院眼科医長を務める。2011 年5 月あまの眼科クリニック開院。

CLINIC DATA

診療内容
一般眼科外来、手術(日帰り白内障・眼瞼・斜視など)、レーザー治療(糖尿病網膜症・緑内障など)、コンタクトレンズ、眼鏡処方、こどもの視力相談
所在地、
愛知県春日井市八田町6丁目21-23
診療時間
9:00~12:00 16:00~19:00(火曜日と金曜日の午前中は手術日)
休診日
木曜日、土曜日午後、日曜日、祝日
スタッフ
9名(医師1、看護師1、視能訓練士3、受付4)
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