なつっこくて、ほっこりする
地域に開かれた目医者さんをめざす

山形県山形市・金井たかはし眼科

金井たかはし眼科の高橋義徳院長は、診療時間中、いつでも五感を研ぎ澄ませ、 「スタッフはいきいきしているだろうか。患者さんは余計な緊張をしていないだろうか」と思い巡らし、院内の雰囲気を全身で感じ取ろうとする。

今もまた、一人の患者を送り出すと、診察室の椅子に腰掛けたまま、耳を澄ます。エントランスのドアが開く音、ゆったりしたこれはおそらくお年寄りの足音、キッズルームでわき起こる甲高い声、検査室ではスタッフが穏やかな口調で患者に話しかけている……。そんなクリニックの“呼吸音”に耳を傾けつつ、次の患者にどんな言葉を最初に掛けようか思案しながら、電子カルテに目線を集中する。その真剣な眼差しが、患者の名前を呼んだ瞬間、柔和な人なつこい笑みにとって代わられる。

ひたすら真摯に、一生懸命、患者と、日常診療と向き合う。それが金井たかはし眼科、高橋義徳院長のスタイルだ。

CONCEPT

あえて手術室のない、外来に特化した診療所   

開業のコンセプトに合わせて医療集積度の高い立地を選択

山形大学医学部眼科学教室で講師を務めていた高橋院長が、開業を選んだ理由は、明確である。ひとえに「外来が好き」だからだ。
「診察室に入ってきた患者さんとお話ししながら診断し、治療するという行いが大好きなんです」と、語る高橋院長の口調はとても静かで、耳に心地良い。恐らく患者も同じように親和感を覚えることだろう。「大学病院では、臨床・教育・研究を並行して行わなければなりませんし、患者さん一人に長い時間をかけて診る余裕は残念ながらありません。自分の思いを突き詰めるなら、この道しかないと決意しました」

開業のコンセプトは、もちろん、「外来に特化する」ことだ。このコンセプトを具現化するために院長が描いたクリニックの青図は、あえて手術室を設けないということ。代わりに待合や検査室、診察室を広く取ることで、外来の機能を徹底的に追求することにしたのである。

高橋院長の専門はオキュラーサーフェス(眼表面)。角膜・結膜疾患やアレルギー、ドライアイ、眼精疲労などが主な対象だが、こうした疾患は一般的な眼科クリニックにおいて受診者全体の過半を占める。手術室を持たなくとも、医療経営的には問題はないだろうし、「多様化する現代では、診療所も機能分化して当たり前。すべてのクリニックで手術をする必要はない」と、考えた。

ただし、患者のことを思うと、いざ専門外の疾患や手術が必要なケースに遭遇した際も、適切に対応できるよう環境整備しておかなければならない。

そこで高橋院長は病診・診診連携を円滑に行うべく、立地面での“医療集積度”に注目した。「ここ金井地区は、近隣に県立中央病院と山形済生病院を有し、白内障手術の実績ある眼科医院や、他科診療所も多数存在する、いわば医療集積度の高い地域。ここでなら、外来に特化しながら地域医療の一翼を担えると確信しました」

このページの上へ

FACILITY

患者が来やすく、過ごしやすい機能性に富んだ施設

ゆったりとした空間構成と眼表面診療の質を高める医療機器

高橋院長の考える「外来に特化する診療所」とは「訪れる人が、来やすく、待ちやすく、検査を受けやすく、診療そのものがわかりやすい診療所」である。

まずは患者が来やすいよう、広い駐車場を確保し、バリアフリー構造とした。

待ちやすいよう、落ち着きのあるアースカラーで院内を統一し、ソファも間隔を空けて設置、待合の一角にキッズルームも用意した。さらに、診察までの時間が少しでも有意義であるように、山形県を代表する洋画家、原秀造画伯の絵画で壁面を飾り、その反対側には巨大モニターを配して眼科疾患の情報を映すことにした。

「3月には雛飾り、七夕には私のふるさとである仙台の吹き流しなど、待合のデコレーションで季節感も演出しています」

気を配るのは目に見えるところだけでない。アロマティック・エアディフューザーを数カ所に配し、抗菌消臭効果が高く、森林浴効果もある香りで院内を包む。

検査しやすいよう、検査室は動線に配慮しつつ、ゆとりあるレイアウトを心がけた。併せて医療機器は、「最新の調節機能検査であるAA-2や、5分以上かかっていたドライアイの検査を約6秒程度にまで短縮できるTSASなど、オキュラーサーフェスに関わる最先端のものを用意しました」と、高橋院長。侵襲性が低い、患者本位の機器選定を行ったわけだ。とくにTSASは開院ぎりぎりに市販化されたもので、「診療所単位ではおそらく全国初」だそうである。

ではわかりやすい診療とはどのようなものだろう。「それこそが金井たかはし眼科のモットーです」と、高橋院長はまなじりにぐっと力を込めた。

このページの上へ

MANAGEMENT

満足度の高い医療のため患者情報をきめ細かく収集・共有

開業前に入念な教育研修診療所の理念を全員が共有する

「わかりやすい診療」のことを高橋院長は、「腹落ちのする診療」と言い換えて説明する。すなわち「患者さんが検査や診断、治療に対して、『なるほどそういうことか』と、お腹に落ちる診療」である。

このため、ハード面においては、目で見てわかる“ビジュアル化”を重視することとした。具体的には、電子カルテと画像ファイリングシステム、各種医療機器をネットワークで結び、「診察室のモニターで患者さんにTSASなどの検査結果を目で見てもらいながらかみ砕いて説明します」

加えてソフト面の充実、とりわけ患者に関わるさまざまな情報収集力が大切であると強調する。「私を含め全員が、病だけでなく、患者さんを全人的に理解するため、その人の所作に目を配り、声をかけるなど気を配り、心を通わせながら必要な情報を聞き取って、かつ得られた情報を全員が共有しなければいけません」

高橋院長は、クリニックの各所に電子カルテと連動したノートパソコンを置き、カルテのコメント欄に、スタッフがさまざまな情報を簡便に記せるようにした。日常診療の現場では、スタッフが検査の手順や意味を説明しながら患者から知り得た情報をカルテに入力していく。診察室では院長がその内容を確認しつつ、可視化されたデータに基づいて目に見えるかたちで診察を行っている。

そんな流れるような小気味よい連係プレーも、同院の際だった特色といえるだろう。スタッフ数は、院長を含め6名と多くはない。「だからこそ、少数精鋭、万全の体制で患者さんをお迎えしたい」と語る高橋院長は、開院までのおよそ1カ月間、念入りに教育研修を行い、「外来に特化する」というクリニックのコンセプトと、「腹落ちのする診療を行う」というモットーを、全員の共通認識として徹底したのだという。

金井たかはし眼科の設立は2007年10月。当初1日平均20~30名ほどだった来院患者数は、その評判が口コミで広がって、みるみるうちに増えていった。

さらに特筆すべきは、2010年の『患者さんの声調査』の集計結果(株式会社QLife主催)である。そこで全国第2位という卓抜した評価を獲得し、患者満足度の高さを証明してみせたのだ。

「ドクターやスタッフの優しい対応」「丁寧な説明」「待っていることが苦にならない雰囲気のよさ」など、次々寄せられる患者からの賛辞は、これまで記したような地道な努力を積み重ねた結果だ。

このページの上へ

POINT OF VIEW

コミュニティに対して開かれた診療所をめざして

ナレッジマネジメントの方法論を模索しながら進化する

開業から4年、現在の患者数は1日平均約60名、病診・診診連携も軌道に乗り、高い患者満足度を維持している。理想的なクリニック経営を継続しているようだが……「何事においても、ある一定のレベルに達するまでには1万時間必要だといいます。診療時間換算では開業6年目がちょうど1万時間、まだまだ私たちは未熟です」と、現状を良しとしないで自戒する。

今後は、ハード・ソフト両面で“腹落ちのする医療”を進化させながら、「スタッフ一人ひとりの内に蓄積されてきたノウハウの中で、言語化しにくい、たとえば患者さんのちょっとした仕草とか、表情の変化とか、声の調子などを、いかにして知的資源として共有し、活用していけるか、ナレッジマネジメントの領域に深く切り込んでいきたい」という。

その上で、「もっともっとコミュニティに開かれたクリニックになりたい」と、高橋院長は柔らかな、しかしきっぱりした口調で表明する。コミュニティに開かれたクリニックとはいかなるものか。院長からすると、「なつっこくて(人なつこく)、ほっこりする(あたたかな)、眼科医というよりは、親しみを込め“目医者さん”と呼ばれる感じ」なのだという。

「医療機関は、敷居の高い、入りづらいものだ、という印象があります。おかしな表現ですが、私はこの医院を、病気でなくても入りたくなるくらいオープンな雰囲気にしていきたいのです。今も小学生がトイレを借りにきたりしますが(笑)」

手始めに患者会というほど大げさなものでなくとも、何かテーマに沿った患者の集まりを立ち上げたい、という。

「 ソーシャルネットワーキングサービスのようなものを活用することもあるかもしれません。形はどうあれ、このクリニックを、来院する人たちにとって、もっとほっこりできる、なつっこい場所にしていきたいのです」。院長であることの醍醐味は、子供だった患者さんが大人になって自分の子供を連れてくる、そんな光景を思うこと、と、ほっこり、なつっこく微笑む高橋院長。今日も診察室でクリニックの“呼吸”に耳を澄ませ、患者に対する最初の一言に思いを巡らせている。

このページの上へ

MESSAGE

眼科診療所はいわば小さなコミュニティ。
治療+αの居心地のいい診療所をつくります

眼科医を志したのは、この診療科に老若男女、世代を超えて患者さんが集まってくるからです。こちらに小さいお子さんがいれば、あちらには90歳を優に超えたおばあさんがおられる。かと思うとその傍らに思春期真っ盛りの若者が座っている。いわば眼科の待合は小さなコミュニティの様相を呈しており、私はそんなミクロコスモスの中で、いろいろな患者さんと対話しながら、ひとつひとつ丁寧に診察をしていきたいと思っています。患者さんの気持ちにしっくりと落ちていく診療をするためにどうしたらよいか、これからも日常診療の中で答えを探し続けてまいります。

高橋 義徳 Yoshinori Takahashi

1990年山形大学医学部卒業。1995年日本眼科学会専門医。1997年医学博士。1998年山形大学医学部附属病院講師。2000年山形県アイバンク理事。2002年スウェーデン・ウプサラ大学博士研究員。2004年山形大学医学部附属病院講師に復職。2007年10月金井たかはし眼科を開院し、現在に至る。

CLINIC DATA

診療内容
眼科一般、オキュラーサーフェス疾患治療、 屈折矯正、オルソケラトロジー、
コンタクトレンズ外来
所在地、
山形県山形市瀬波1-6-15
診療時間
9:00~12:30 14:30~18:00(土曜日は16:00まで)
休診日
木曜日、日曜日、祝日
スタッフ
6名(医師1、看護師1、視能訓練士2、事務職2)
外来患者数
約60名/日
このページの上へ