若手スタッフのための一歩進んだ接遇術 〈前編〉
好感を持たれる接遇の基本と高齢者への対応

若いスタッフのみなさんが、自分より人生経験豊富な年上の患者さんと接するとき、どうすれば好感を持っていただけるのでしょう。そのための心得やコツを前後編に分けてご紹介します。まずは接遇の基本とコミュニケーション力向上のポイントから。ベテランスタッフのみなさんにとってもあらためて我が身を正すヒントになれば幸いです。

接遇・マナーの基本5か条

接遇とは、おもてなしのこと。そのおもてなしのまごころを具体的な形にするために私が何より大切と考えるのが、笑顔で患者さんと接することです。とくに初めて来院される患者さんは、ぜひ笑顔でお迎えください。具合が悪い患者さんに笑顔は失礼、などということはありません。「たくさんのクリニックの中からよくぞ選んでくださいました」「安心して診察を受けてください」「きっと良くなります」……そんな思いを、温かな微笑みに包んでお迎えしましょう。

あなたや診療所の第一印象を決めるのはまごころを込めた笑顔。そのことを前提として、次に〈接遇・マナーの基本5か条〉(図1)を見ていきましょう。根底にあるのは「患者さんが主役」という考え方です。

第1条「言葉遣い」の基本は相手を敬うこと

講習会などで、若い方から、「敬語が上手に使えないのですが…」という質問をたくさんいただきます。「その答えは、正しい敬語を学び、実地に使用しながら慣れるほかはない」ということ。何度も繰り返し練習すれば、自然に敬語は出てきます。スタッフ間の勉強会や朝礼などの機会にロールプレイングしてみてもよいでしょう。ただ、地方の診療所などでは、敬語を使うと「よそよそしい」と敬遠されることも。患者さんがざっくばらんな口調なら、こちらも礼儀をわきまえつつ、相手に合わせて親しげな言葉で応じてもよいでしょう。けれど、いくら親しみを込めたつもりでも、お年寄りに「おじいちゃん」「おばあちゃん」と話しかけるのは御法度。名前はその人自身をあらわす大事な個性です。「○○さん、いかがですか?」と個人名でお呼びします。これもまた、一人ひとりを敬う気持ちのあらわれです。

第2条「身だしなみ」基本は清潔第一

多くの若い人は、おしゃれでありたいと願うもの。しかし、医療人にとって真のおしゃれとは清潔第一、これに尽きます。それも、年齢・性別・職業もバラバラな100人の患者さんが100人全員「すがすがしい、感じがよい、清潔だ」と思うくらいでないと十分とはいえません。判断基準は自分ではなく、あくまで患者さん。身だしなみをどう整えるかでも、患者さん目線を忘れないようにしましょう。

第3条「挨拶」基本は感謝の気持ち

「自分より目上の人には、どう声がけをしたらよいかわからない」との声も聞きます。まずはあまり気負わず、自分から相手に近づき、心を開いて明るく挨拶をすることから始めましょう。はじめに申し上げているように、その際、「よくぞこのクリニックに来てくださいました」と感謝の気持ちを込めること。挨拶をされると、人はそれを無視できません。「おはようございます」「こんにちは」。その一言がコミュニケーションの始まりです。

第4条「姿勢」の乱れは気持ちの乱れ

足を投げ出して座ったり、貧乏揺すりをしたり、頬杖をついたり……。どうせ見えないだろう、見ていないだろう、と思っても患者さんはそんなあなたの緩んだ気持ちをお見通し。こんな緊張感のない診療所で診てもらいたくない、と思われること必定です。いったん職場に入ったら、そこは全身全霊で患者さんと向き合う真剣勝負の場。凛と正しい姿勢はそんな気持ちのあらわれです。

第5条常に患者さんを「上座」に置く気持ちで

4条の「姿勢」同様、心持ちの上で大切にしたいのが「上座・下座」の考え方。たとえばクリニックに続くエレベーターで患者さんと乗り合わせたり、路上で患者さんとすれ違ったりしたとき、「今はお休み時間だから」「きっと気づかないだろう」などと無視を決め込むのは厳禁。路上なら挨拶あるいは会釈をし、エレベーターなら開ボタンを押して患者さんを先に通す。たとえ若くとも、ユニフォームを身につけたあなたは患者さんにとってそのクリニックの代表なのです。患者さん第一”を実践するためにも、制服着用時は、つねに我が身を下座に置く意識で接しましょう。

コミュニケーションのポイントは
「話す・聴く・感謝する」の3ポイント

さらに一歩進んで、コミュニケーション力を高めるポイントをご紹介します。それは「見る」「聴く」「感謝する」の3点。この3点を意識することで、コミュニケーションの基本となる信頼関係が築かれるのです(図2)。

ポイント1話すときには相手の〈目を見る〉

目は口ほどにものをいう。その人のことを理解したいと念じて目を見ると、何を考えているのか、曖昧ながらわかるものです。たとえば、検査の説明時などに目が泳いでいれば、話についていけず戸惑っている証拠。「ここ、もう一度ご説明しますね」と言えば、患者さんは安心し、察しのよい対応に好感を寄せるはずです。もちろん目を見るときには優しい眼差しで!

ポイント2 真剣に〈聴く〉態度が安心につながる

高齢の方は思っていることがすぐ言葉にならず、聴く側にとってはなかなか忍耐が必要です。だからといって、おざなりに対応すれば、信頼を決定的に損ねます。傾聴のポイントは次号の後編で詳しく説明しますが、真剣に聴く人に対して、患者さんは心を開いてくれることを覚えておいてください。

ポイント3 〈感謝する〉ことは相手を認めること

何も服装や髪型をほめるわけではありません。たとえば、月初の来院時、催促しないのに患者さんが保険証も出してくれた……。そんな患者さんの心配りに応えて「保険証、助かります。お預かりしますね」と応じるのです。「感謝する」というのは、「私はあなたの気持ちを受け取りましたよ」と相手を認めること。患者さんの思いを受け止め、認めて、それを感謝の言葉にあらわすこと。患者さんは、自分の行為が認められたことで、気分のよい対応だと感じるでしょう。

患者さんと真摯に、注意深く接していれば、自ずとケアレスミスはなくなり、ヒヤリハットも減っていくことでしょう。医療接遇は医療安全に密接に関係します。どうか一人ひとりの患者さんにまごころをもって接してください。

村尾孝子  Takako Murao

(株)スマイル・ガーデン代表取締役
http://smile-garden.jp
明治薬科大学薬学部薬剤学科卒業後、総合病院薬剤部や調剤薬局などで調剤経験を重ね、管理薬剤師として新入社員、後進の育成に尽力。医療系研修会社に転職し、社員教育・研修インストラクターとしての経験を積む。埼玉大学大学院経済学部経営管理者養成コース修了。2009年株式会社スマイル・ガーデンを設立。現在、健康に関わる講演活動や、医療機関向けの接遇マナー研修のほか、さまざまな業種に適応できる体験型セミナー、講演を実施するなど、幅広く活躍中。

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