スムーズな関係づくりのためのコミュニケーション術 〈前編〉
一体感が芽生える「聴き方」 4つのポイント

医療機関が治療を成功させるには、患者さん自身の積極的な参加が欠かせません。そのために最も重要なことは、医師の診察にもとづく診療方針を、患者さんが納得しているかどうか、ということ。医療者との間で合意が形成されていなければ、患者さんが薬を途中でやめてしまう、外来を受診しなくなってしまうといったことにもなりかねません。最近は、インフォームド・コンセント(正しい情報を伝えられた上での合意)の重要性が医療者側、患者側双方に認識されつつあるとはいえ、医療機関ではまだ、その「方法」については手探り状態のところが多いようです。

そこで今回は、患者さんとの合意形成に必要なコミュニケーション術を<前編>
<後編>に分けてご紹介します。といっても、ここで取り上げる「相手との合意形成の7つのステップ」は、患者さんにしか通用しないものではありません。職場でも家庭でも基本は同じ。一対一の対話を通じて相手と合意形成しようとするときなら、どんな場合にも有効です。

 

7つのステップを踏まえて
相手とスムーズに合意を形成

 

下の図は、医療機関で医師やスタッフが、患者さんと対話するケースを想定したものです。

まず、STEP1の「来院目的の確認」に始まり、STEP2では観察(ウォッチング)と質問をすることによって、患者さんの表情や話し方、受け答えなどからコミュニケーションタイプを判断します。そしてSTEP3では、患者さんの話をじっくりと「聴き」ます。次に、その内容を整理して、患者さんの疾患の原因を特定するのがSTEP4。そして、STEP5では、STEP2で判断した相手のタイプに応じた話し方や言葉遣いをしつつ、処置内容を説明して、治療に当たります。その後は、STEP6で治さなければいけないという意識と治したいという期待を共有し、STEP7では「治療への積極的な参加」という前向きな行動をサポートします。以上が、一連の流れとなります。

この7つのステップのうち、特に重要なのがSTEP3の「聴く」と、STEP2とSTEP5の「タイプ別の対応」です。そこで、<前編>ではより良い聴き方の手順について、<後編>では相手のタイプの分類と対応法について、詳しく解説していきます。

相手の気持ちを受け止め、
「聴いていますよ」を表現しましょう

STEP3は、患者さんに十分にお話をしていただく、つまりこちらから見れば、病状を「聴く」という段階です。

医療機関を訪れる人は、健康上の問題を抱えて、誰もが大なり小なり不安な気持ちになっています。また、医療者と患者では、立場も全く異なります。そんな状態で、最初からうまく合意を形成しようとしても難しいもの。相手の話をきちんと「聴く」ことで、「この人たちは、自分のために協力してくれているのだ」という安心感と一体感を醸成し、合意を形成しやすい環境をつくるのが、このステップのねらいです。ですから、「聞く」ではなく「聴く」。漫然と聞き流すのではなく、注意して耳を傾ける「聴き方」を身につけましょう。

患者さんの話の内容や気持ちをしっかり受け止め、「聴いている」ことを表現するには、
1.あいづち、2.事柄のフィードバック、3.感情のフィードバック、4.要約のフィードバックの4つのポイントを意識することが大切です。

point 1 あいづち
ゆったりと適度な回数で

適切な「あいづち」には、相手に「この人は私に関心を持ってくれている」と感じさせる効果があります。患者さんの話をじっと聞きながら、ゆったりとした間合いでうなずいたり、受け答えをしたりしましょう。医療機関では、込んでくるとどうしても、患者さんを「捌(さば)く」ような対応になりがちです。無意識のうちに、相手の言おうとしていることを先回りして言ってしまったり、「はい、はい」とせわしなくあいづちを打ったりしてはいないでしょうか。自分はあいづちを打っているつもりでも、これでは「じっくり聞いてもらえない」という印象を与えてしまい、逆効果です。

同じ1分間でも、聞き手の反応によって話し手の満足感は変わってきます。医療機関の待ち時間が長く、診療時間が短いことをよく「3時間待ちの3分診療」などと言いますが、あいづちの打ち方によって、3分を物理的な時間以上に長く感じさせることができるのです。

point 2 事柄のフィードバック
事実を具体的に復唱する

相手に「あなたの話をしっかり聴いていますよ」と示す受け答えの仕方の一つに、「事柄のフィードバック」があります。これは相手の言葉を受けて、「~ということですね」と繰り返すもので、医療機関では、特に重要なスキルです。たとえば、看護師に病状を訴えたとき、ただ「わかりました」とだけ言われたのでは、患者さんは「本当にわかっているのかな」と、不安になってしまうでしょう。「わかりました。昨日の朝から、左の上まぶたに、腫れと痛みがあるんですね」というように、患者さんが伝えた事実を具体的に復唱すると、安心してもらえます。

point 3 感情のフィードバック
共感の心を意識的に表現

ここで紹介する「聴き方の4つのポイント」のうち最も大切なのが、相手の気持ちを受け止め、共感の心を言葉や態度で表現する「感情のフィードバック」です。特に医療機関では、具合が悪く、困っている患者さんに応対するのですから、いっそうの配慮が必要です。「あなたのお気持ちはよくわかります」という感情を込めて、「不安ですよね」などと、いたわりの言葉をかけてあげましょう。最初は、自分でわざとらしく感じてしまうかもしれませんが、意識的に「表現しよう」と心がけているうちに習慣になり、自然にできるようになります。

point 4 要約のフィードバック
長い話の要点をまとめて確認

「具合の悪さを治してほしい」という気持ちが強ければ強いほど、患者さんはすべてを話そうと思うあまり、どうしても話す内容が散漫になってしまいます。また、ご高齢の場合は、そうでなくても話が長くなりがちです。ともすれば、ご本人も自分が何を言いたいのか、よくわからないこともあるでしょう。そんなときに効果的なのが「要約のフィードバック」です。ひとしきり話を聞き終えたら、「要するに、一番不安なのは、こういうことですね」と、要点を端的にまとめて返してあげましょう。一緒になって確認することで、患者さんの安心感がぐっと高まるのです。

ここに挙げた4つのポイントをまとめると、「相手の気持ちを受け止めて、そこに自分の共感を乗せて返す」ということになるでしょう。これが、「聴く」の基本です。次回は、こちらから相手へ向けて「話す」方法のコツとして、相手の人格タイプの見極め方と、タイプ別に受け入れられやすい話し方をご紹介します。

大野洋子  Yoko Oono

officeインプレッション代表
東京都出身。早稲田大学法学部卒業。日本航空(株)国際線客室乗務員、国際旅客部旅客サービス課勤務を経て、米国ボストンのJohn Robert Powers SchoolにてPersonal Growth、Manners, Communicationsを学ぶ。その後、日本校開設準備に携わり、同校講師およびディレクトレスを務める。ロサンゼルスでイメージコンサルタントとカラーアナリストの米国における資格を取得するとともに、継続的に渡米し、コーチング、NLP理論、交流分析などを実践的に学ぶ。現在、officeインプレッション代表。航空会社での接客経験、アメリカで学んだコミュニケーションのノウハウ、企業における豊富な人材育成経験をもとに、コミュニケーションアドバイザーとして、講演・研修活動を多くの企業、医療機関などで行っている。

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