円錐角膜患者へのコンタクトレンズ処方と対応について、
京都府亀岡市・ひがしはら内科眼科クリニックの東原尚代先生に伺いました。

− 円錐角膜はまれな疾患というイメージがありますが、実際のところ、どのくらいの割合なのですか?

東原Dr: 一昔前には6,000人に1人と言われていましたが、最近は検査器機の進歩などで初期の円錐角膜も見つけられるようになり、2,000人に1人と言われています。一般的な疾患と言えますね。

− 円錐角膜の原因には遺伝的要素もあるのですか?

東原Dr: 大学病院で多数の症例を診ていますと、親子三代とか兄弟で円錐角膜のケースも経験しますので、遺伝的な要素も何かあるのではないかと思います。でも、まだはっきりした特定遺伝子はわかっていません。遺伝的な要素と他の要素、たとえばアトピー性皮膚炎やアレルギー性結膜炎などで眼を強くこすることも影響して発症するのだろうと思います。

− 一般的な疾患だということですが、コンタクトレンズ患者の中に円錐角膜患者が潜在的にいることも考えられます。円錐角膜はどのように見分ければよいのでしょうか?

東原Dr: トポグラフィーなどの精密に角膜形状を解析できる検査器機があれば、確定診断がつけられるのですが、トポグラフィーが一般のクリニックに普及しているわけではありません。それ以外で見分けるのであれば、乱視度数が強くなってきたとか、眼鏡やソフトコンタクトレンズで視力が出にくくなってきたなどの変化があれば、円錐角膜を疑うということですね。検査してみるとただの直乱視ということもありますので、確定診断はつけられないのですが、クリニックなどで診察時にカルテを見て、前回より視力が出にくいなと思ったら円錐角膜を疑ってスリットで見てみると、Vogt's striaeがわずかに見えることもあります。コンタクトレンズを装用したままでもそのような微妙な角膜の変化を見つけることはできますよ。

また、日本人の角膜曲率半径の平均値が7.8㎜くらいですから、ケラトの測定値で7㎜台前半や6㎜台であれば、「おや、これは小さい」と思える感覚が必要だと思います。もちろん正常角膜でもケラト値の小さい方はいますが、7㎜台前半より小さいケラト値であれば、円錐角膜を念頭に置くことが大切だと思います。もちろん、ケラトが測定できないような場合も円錐角膜を疑います。

− 円錐角膜は基本的にハードコンタクトレンズが適応になると思いますが、通常のハードコンタクトレンズ処方と違いはあるのですか?

東原Dr:まず、ケラト値は全く参考になりません。そもそもケラトが測定できるのは初期の円錐角膜だけですが、たまたまケラト値が測定できたとしても、円錐角膜は角膜の中央部付近が突出し、周辺部分は正常角膜よりもフラットな形状をしていることも多いので、ケラト値を参考にベースカーブを選んだら、スティープすぎるフィッティングになってしまいます。初期の円錐角膜であってもハードコンタクトレンズ処方にケラト値は全く参考にしないことが大切です。そうすると、ケラトを参考にせずに最初のベースカーブをどう選ぶかが問題になります。以前、大学病院での処方傾向を調べたら、7.80㎜とか7.90㎜くらいを処方していることが一番多かったのです。まずは7.80㎜くらいを入れてみるのが良いと思います。あとはフルオレセインのパターンを見ながらトライアンドエラーでベストなフィッティングに近づけていきます。

また、円錐角膜だからといってフィッティングを見るときに特別に考える必要はないと思っています。正常角膜でも、コンタクトレンズが角膜周辺部、特に上方を圧迫しないように合わせることが処方成功のポイントですよね。円錐角膜の場合も全く同じです。ただし角膜中央部が突出していますので、どうしてもレンズの下方が浮いてきてしまいます。この下の浮きを気にしないということがポイントです。レンズ下方が浮いていても、角膜上方の周辺部をきちんと合わせてあげる、それだけで良いと思います。下が浮いてくるとどうしても気になってきてしまうのですが、案外大丈夫なものです。下方の浮きを気にしてベースカーブを小さくすると、逆に角膜上方への圧迫が強くなって、痛みのために終日装用ができなくなったり、レンズが上方へ上がらずに下方安定となり、良好な視力も期待できません。

− 多段階カーブコンタクトレンズと球面コンタクトレンズはどのように使い分けされているのですか?

東原Dr: 「円錐角膜には多段階カーブコンタクトレンズ」と考えておられる先生もいらっしゃいますが、中等度までの場合、球面コンタクトレンズでも十分に処方は可能です。球面コンタクトレンズで角膜頂点部分を押さえると視力が出やすく、進行予防も期待できます。ただ、初期の円錐角膜の中にも非球面性の非常に高い眼もありますので、多段階カーブコンタクトレンズでないとうまくいかない場合もあります。また、最近は若い人で角膜の大きい人が多くなってきたような気がしており、今までのように球面コンタクトレンズでは対応できないこともあります。初期であっても多段階カーブコンタクトレンズでなければ合わないというケースも増えてきているという印象です。一般的には、多段階カーブコンタクトレンズよりも球面コンタクトレンズのほうが光学部も広く、突出部分を押さえる効果もありますので、視力が出やすい傾向はあります。まずは球面コンタクトレンズを第一選択にされるのが良いと思います。

− 一般のクリニックに重症例の方が来院した場合、どのように対処すれば良いのですか?

東原Dr:円錐角膜は進行性の疾患で、10歳代では進みやすいこともあり、特に若年者では少なくともトポグラフィーを用いて慎重に経過観察する必要があります。ですから、若年者の場合は専門の施設に紹介することが患者さんにとって一番良いと思います。20歳代にはいれば、進行も緩やかになってきますし、30歳代になればほとんど進行しません。コンタクトレンズを入れて視力が出ていて、装用感も問題なければ、専門の施設へ紹介する必要性も少なくなってくると思います。ただ、重症例ほど処方自体が難しい場合もありますので、専門施設と連携しながら経過を観察していくということが良いと思います。また、進行した症例の場合は最終的に角膜移植などを考慮する可能性も考えて、専門の施設に紹介するのが良いかもしれません。

− 円錐角膜に対する外科的な処置、角膜内リングや角膜クロスリンキングなどの新しい技術は一般的になってきているのですか?

東原Dr:今は大学病院で臨床研究という段階です。角膜内リングを挿入するには、ある程度の角膜の厚さ、円錐角膜が初期である、近視が弱い、などが適応条件になります。適応範囲が限られますが、症例を選べば、裸眼視力もある程度改善するなどのメリットはあります。ただし、レーシックとは異なり、最高視力を出すためにはコンタクトレンズ装用が必要になります。一方、角膜クロスリンキングは、円錐角膜の進行を止める手術です。こちらも角膜の厚さなど条件がありますが、若年者で初期の円錐角膜などに施行すればメリットは大きいと思います。

−円錐角膜のハードコンタクトレンズ処方を身につけていきたいという先生方にメッセージはありますか?

東原Dr:円錐角膜の患者さんは眼鏡やソフトコンタクトレンズで視力が出にくいとか日常生活に支障をきたして困っている人が多いので、どうしても気持ちが沈みがちです。ポジティブで明るくニコニコしている人はまずいません。悩みを抱えている人が多いですから、できるだけ話を聞いて、もちろんレンズの調整もベストを尽くして、困っておられることをしっかりと受け止めてあげるということが、診療の中ではすごく重要だなと思っています。

コンタクトレンズの処方自体は決して難しくなく、多段階カーブコンタクトレンズでなければ、ということもないですので、手持ちのレンズでも問題なく処方できる範囲は広いと思います。適切な処方を身につけるにはある程度の経験が必要ですが、学会などのセミナーや基礎講座を受けて勉強するとか、円錐角膜の処方に精通した先生のところに見学のような形で勉強するなどされると良いと思います。

− ありがとうございました。

東原尚代 Hisayo Higashihara

1999年 関西医科大学卒業
1999年 京都府立医科大学眼科学教室入局
2000年 パプテスト眼科クリニック医員
2003年 京都府立医科大学 視覚機能再生外科学大学院
2007年 愛生会山科病院眼科医長
2009年 京都府立医科大学 視覚機能再生外科学後期専攻医員
2011年 ひがしはら内科眼科クリニック副院長、医学博士
京都府立医科大学眼科非常勤医師 (円錐角膜、コンタクトレンズ外来担当)
専門分野:角膜疾患、円錐角膜、ドライアイ、コンタクトレンズ

CLINIC DATA

所在地
京都府亀岡市北町57-13
診療時間
9:00~12:00 13:30~16:30
休診日
金曜日・土曜日午後、
水曜日・日曜日・祝日
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