近視矯正の新たな選択肢である「オルソケラトロジー」について
フジモト眼科の藤本可芳子先生に伺いました。

大阪府大阪市・フジモト眼科

− オルソケラトロジー(オルソK)について、よくご存知ではない先生方もいらっしゃると思います。まず、オルソKとはどういうものか、簡単に説明していただけますか?


オルソケラトロジーのトライアルレンズセット

藤本Dr : 簡単に言うと、角膜表面をハードレンズで圧迫することによって、角膜表面の形を変え、屈折力を変える方法です。レンズを装用している期間は効果が持続しますが、装用をやめると角膜の形は元に戻り、効果もなくなります。オルソKのアイディアはハードレンズが出てきたときに、すでに生まれていたようです。最初は、たまたまハードレンズを装用した患者さんの屈折値が変わっていることを見つけ、角膜を押さえることで近視度数が弱くなるという発想を得たのがきっかけです。しかし、当時は軽度の近視だけに対応していましたので、あまり浸透はしませんでした。そして、1970年代からレンズに改良が加えられ、1990年代には−4D~−5Dまでの近視を矯正できるようになり、最近では寝ている間(7~8時間)だけ装用して日中16~17時間は効果が持続します。

− LASIKと比較して、オルソKの矯正効果や視力の質についてお聞かせください。

藤本Dr : 矯正効果を考えると近視も乱視も矯正できるLASIKのほうが高いです。これは、LASIKの成功例とオルソKの成功例を比べたときの話です。ただ、角膜の厚みが十分になくLASIK術後で乱視が矯正しきれなかった患者さんとオルソKで乱視が残った患者さんを比べると、オルソKのほうが視力も満足度が高いのです。トポグラフィではLASIKのほうが状態が良く見えていても、です。不思議なのですが、オルソKでは角膜の表面を圧迫するだけで、LASIKのように削らないため角膜の厚みはそれほど薄くならず、均等な厚みが残っているからではないかと考えています。ですので、オルソKのレンズは就寝中少しずれても、それほど視力の低下を感じません。ただ、レンズがずれずに乱視も出ないに越したことはありません。曲率半径が大きすぎても小さすぎてもレンズがずれやすいので、乱視が出る可能性や視力が十分得られない日があることを事前に説明しておく必要があります。

− オルソKレンズの処方は難しそうな印象がありますが、いかがでしょう。


装用したオルソケラトロジーレンズ

藤本Dr : まず、処方しやすい患者を選択することが重要です。乱視の有無や近視度数によって視力が安定するまでの時間が変わります。また角膜がスティープすぎるとレンズが安定しませんし、逆にフラットすぎると押さえられないので視力が安定しません。眼瞼による影響もあります。日本人は眼瞼圧が強いので、寝ている間にレンズが下方にずれることがあります。このような方にも注意が必要です。最初のうちは、処方がしやすい患者さんを選んで処方していくほうがよいでしょう。そして症例を重ねていくうちに、さじ加減がわかってくると思います。

− オルソKの処方成功率はどのくらいですか。

藤本Dr : 患者さんをきちんと選択すれば90~95%くらいです。これは患者さんの選択の幅によると思います。当院では患者選択のガイドラインを決めていて、ウェブサイトに掲載しています。まれに、−8Dや−9Dといった適応から外れた強度近視の方で、LASIKは受けたくない、コンタクトレンズはつらいといってオルソKを希望される患者さんがいます。眼鏡では日常生活も不便ですので、−8Dの近視をオルソKで−3Dや−4Dにすることで、軽い眼鏡がかけられて満足されるということもあります。

− オルソKレンズの安全性についてはいかがでしょう。

藤本Dr : 普通のコンタクトレンズとは昼夜が逆になりますが、心配していたよりも、合併症が少ないです。ただ、カーブが合っていないのに無理して入れたりされると、軽い上皮びらんなどはあります。普通は痛みが出るので、レンズをはずして2、3日で治るのですが、慢性のびらんになると痛みがわからなくなってしまいます。痛みがわからなくなり、傷が深くなったところに、たまたま感染を起こしてしまうこともあります。当院でも2例ほど深刻な症例を経験しています。幸い、視力の低下なく回復しましたが、治療が遅れると永久的な視力低下を起こします。
 また、普通のコンタクトレンズよりもトラブルに気づきにくいということもあります。眼に何らかの障害が起こったとき、ハードレンズでは痛くて入れてられませんし、ソフトレンズでも見えにくくなりますから気づきますよね。オルソKの場合は、入れてすぐ寝てしまいますので、判断が遅くなることがあります。子供の場合だと、痛みに我慢強かったり、親が入れるのでいやだと言えなくて判断が遅れることもあります。眼障害のパーセンテージはとても少ないのですが、発見が遅れる可能性がありますので注意が必要です。
 今のガイドラインでは適応が20歳以上になっていますが、オルソKの効果は20歳未満のほうが高く、海外では小学校低学年からというところが多いようです。ガイドラインは治験のデータに基づいていますので、20歳未満に安全とは書けません。ガイドラインを作った先生方からは「先生の病院で20歳未満でも安全だというデータを出してください。追試調査で安全性が証明できればガイドラインを広げます」と言われています。

− オルソKはどのような人が希望されてくるのですか。

藤本Dr : 基本的にSCLなどを日中装用していて満足されている方は移行しないですね。オルソKを希望される方は、日中SCLを装用するのがつらかったり、手術を受ける年齢に達していなかったり、眼鏡以外に選択肢がないが度数が強かったりという方が多いですね。それに加え、裸眼で見たいという希望が強い人。最初から「オルソKがしたい」と言うような人は少ないです。他の方法が適応でない場合のセカンドチョイスということがほとんどです。ですが、希望される方はよく調べてから来られるので、オルソKに対するモチベーションは高いですね。この意識の高さが成功率を上げる要因の一つかもしれません。

− 近視の進行を抑える効果ということも言われていますが。

藤本Dr : 近視抑制効果については、アメリカでデータが取られていますし、当院でも同じ年齢層、同じような近視の方の追跡調査を行っています。この10年間の調査の中で、近視が進まなくてよかったという人もいれば、順調に(?!)進む人もいます。近視抑制効果があるのかと言われれば、完全にあるとは言い切れませんが、進みにくいのではないかと思います。
 また、オルソKのスタート年齢と近視度数でリサーチすると興味深い結果が得られるのではないかと考えています。たとえば、10歳から始めて3年後と、17歳から始めた3年後を比べると、基本的に成長率が違いますので抑制効果も違うのではないかと思います。このようにさまざまなデータを出すことで今後の参考になればと思っています。

− 先ほどガイドラインに示された適応年齢の話が出ましたが、先生の施設では何歳からオルソKを始めていますか。

藤本Dr : 当院では8歳くらいから始めています。ガイドラインの適応年齢も今後は下がっていくのではないでしょうか。LASIKの適応年齢とかぶっているとオルソKの意味がありません。オルソKはずっと継続していると、その間に費用もかかってきますので、オルソKでの矯正を長く続ける場合は、経済的には高額になります。オルソKは、20歳未満の時期に合った矯正方法だと私は思います。
当院では、きちんと定期検査を受けない患者さんにはレンズの返却を求めています。3ヶ月ごとの定期検査のたびに、レンズチェックも行います。良い状態で使ってもらわないと効果が出ませんし、安全のサポートをすることが重要です。

− オルソKは自由診療になりますが、普通のコンタクトレンズ診療と違う点などはありますか。

藤本Dr : 保険診療と自由診療では患者さんの期待度が全く違います。当院はちょうど10年前からLASIKやオルソKなどを行っていますが、患者さんの期待に応えられるようなプラスアルファの何かがないと、満足度は低くなると思います。

− 現在のオルソKの課題は何でしょうか。

藤本Dr : まず、矯正効果が現時点では限られていますので、その中できちんと成績を出さないといけません。また、オルソKをやめた方の次の治療法に関して、それぞれの施設できちんと提示できるようにしておく必要もあります。効果が得られないのに、いたずらに治療を引っ張ってしまうかもしれません。こうなると患者さんからの信頼が得られません。最初の段階で患者さんの選択肢が必要になってくると思います。

− 今後、オルソKはどのように発展すると思いますか。

藤本Dr : オルソKの位置づけを考えると、まず普通のコンタクトレンズや眼鏡のユーザーがいて、その中にLASIKを希望する人がいて、でもLASIKを受けたいのに適応がなかったり、年齢が18歳未満だったり、その中にオルソKがあると思っています。今は、それぞれの年齢層が重なっていますので、多くの人は安価で手術をしないコンタクトレンズを選択する場合が多いのですが、ドライアイやコンタクトレンズ不耐症など、コンタクトレンズが装用困難な方に、夜間だけのオルソKが装用できる場合があり、裸眼で生活できる手段となりえます。
 ただ、たとえば老視の度数がどんどん変わっていくような中高年の患者さんに対して、装用する日数や装用時間をコントロールすることで、近くと遠くの見え方の調整ができるようになるかもしれません。老視に対しては、コンタクトレンズと同じで度数を変更できるのもメリットになってきます。意外と老視に対するニーズはあるのですよ。
 面倒なのですが、リバーシブル、コントローラブル、ノンサージャリー、裸眼視力の向上という点がオルソKの魅力でしょうね。オルソKがもっと安くなればいいのですが、保険適応は難しいみたいです。厚労省の認可がおりましたので、正確な情報を患者さんに提供し、今後はより多くの眼科で取り組まれることと思います。

− ありがとうございました。

藤本可芳子 Kahoko Fujimoto

1987年 関西医科大学卒業
1993年 フジモト眼科開設
1999年 医学博士取得
専門分野 白内障、近視・乱視矯正手術

CLINIC DATA

所在地
大阪府大阪市北区天神橋6-6-4平蔵ビル2階
診療時間
9:30~12:30、15:00~18:00
休診日
火曜日、祭日
   
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