眼精疲労や調節機能を研究されている梶田眼科院長 梶田雅義先生に、
「視力測定と屈折矯正」についてお話いただきました。

東京都港区・梶田眼科

− 今日は先生に屈折矯正への取り組みについてお話を伺いたいと思います。先生のところへは全国から患者さんがいらっしゃるとお聞きしていますが、どのような患者さんが来られるのですか?

梶田Dr : 北は稚内から南は沖縄まで、ようやく全国制覇しました(笑)。来院されるほとんどの方が眼精疲労でお困りですが、その原因の多くは近視過矯正にあります。たとえば、山口県から来られた40代初めの患者さんは、1.5Dくらい過矯正のコンタクトレンズを処方され、そのまま手元を見るお仕事をされていました。これでは疲れるのも当然です。その患者さんにはパソコン作業ができる程度の度数のコンタクトレンズをつくってあげて、車を運転する時には眼鏡を追加してかけるよう指示をしたら、頭痛や肩こりがなくなったと言って喜んでいらっしゃいました。

− 1.5Dもの過矯正があって見つけられないものでしょうか。近方視力の測定ではわからないのですか?

梶田Dr : 老眼が出始める40代前半なら、1.5Dくらいの過矯正でも遠近とも視力を測るとよい視力値が得られてしまいます。視力だけで見ていると、見つけづらいかもしれませんね。ですが、屈折を見ているとすぐわかります。眼のピント調節を司る毛様体筋は、長時間近くにピントを合わせていると疲れてきます。そして、その蓄積が眼精疲労につながるのです。一般に手元の作業が多い患者さんでは、30代後半ぐらいから近方視対策が必要になります。当院では、30歳代の方にも遠近両用の眼鏡やコンタクトレンズをお薦めすることが多いですね。

− 若い患者さんや初期の老視に遠近両用の眼鏡やコンタクトレンズを処方すると、調節力が弱くなる心配はありませんか?

梶田Dr : 遠近両用の眼鏡やコンタクトレンズを使うと、ピント合わせの力が弱まるのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、よく頑張っても、40代後半になったらピント合わせはできなくなってきます。それまで日々疲れと闘いながら過ごすのか、疲れることなくよい仕事をするのがいいのか、どちらを取るかといったら、快適な状態でよい仕事ができた方がいいのではないか、と思っています。鍛えるのもよいのですが、日常生活を送る上で一番大切なところは何か、その患者さんは何を求めているのか、ということですね。

− 疲れない眼鏡と弱めの眼鏡の違いについて教えていただけますか?

梶田Dr : 「疲れないように強過ぎはダメですよ」と言うと、「じゃあ、弱めがいいのか」とよく聞かれますが、実は弱めも疲れるんです。遠くでも近くでも、見えない、見えづらいという感じがあると、それだけで疲れてしまう。私のクリニックでは、『両眼同時雲霧法』で、基本的に両眼で1.2が見えるように合わせています。ですから決して弱めではありません。それでも、巷(ちまた)で処方される度数に比べれば、かなり度数は弱くなっています。でもそれは、いわゆる「弱め」ではないのです。

− 先生は今お話に出ました『両眼同時雲霧法』の採用を推奨されていますが、なぜですか?

梶田Dr : 人が、どこを見るともなしにボーッと見ている時、正視の人でだいたい1mぐらいの距離にピントが合います。これを“調節安静位”といいます。この調節安静位よりも遠くを見る時は交感神経が働き、近くを見る時は副交感神経を働かせています。片眼で見ている時と、両眼で見ている時では脳の働きも違うのです。片眼ずつ見ていると実はボーッとした状態、つまり調節安静位をつくってしまいます。この状態で遠くが見えるように合わせると、簡単に1Dくらい過矯正になってしまいますが、両眼で見てもらうことで交感神経を活躍させ、調節安静位よりも遠くをよく見える状態にすることができるのです。この状態で測定することが大事なのだと気がついたことから、みなさんにも『両眼同時雲霧法』を薦めています。普通の処方では片眼の視力を少し低めにして、それから両眼の視力をとって視力が上がるのを確認しています。しかし、屈折値としてはまだまだ過矯正です。両眼同時雲霧法を用いれば、よく見えて、なおかつ疲れない度数を求めることができるのです。

− 最後になりますが、“快適な処方”のためには、どのようなことに重点を置けばよいですか?

梶田Dr : 長時間装用しても疲れないこと―それが“快適さ”の秘訣です。片眼ずつでよく見える状態では、見えるけれども疲れやすい眼鏡、コンタクトレンズになってしまいます。やはり、大切なのは“両眼視”。眼鏡もコンタクトレンズも、両眼で見た時に快適であるというところに処方のポイントを置かないといけません。片眼ずつでよく見えることではなく、両眼で見た時に快適と感じられることがもっとも重要です。患者さんに提供したいのは、よく見えるだけの矯正ではなくて、両眼で見てバランスの取れた、快適な屈折状態なのです。

− 先生、今日はありがとうございました。

『両眼同時雲霧法の活用マニュアル』

監修 : 梶田眼科院長 梶田雅義先生

過矯正を防ぎ、適正な矯正を行うことを目標に、自覚的屈折検査時の雲霧の重要性、両眼同時雲霧法などを解説していただいています。
ぜひご活用ください。

梶田 雅義 Masayoshi Kajita

1983年 福島県立医科大学医学部卒業
1993年 カリフォルニア大学バークレー校留学(研究員)
2003年 福島県立医科大学 非常勤講師 梶田眼科院長
現在
日本眼光学学会理事
日本コンタクトレンズ学会理事
日本コンタクトレンズ協議会理事
福島県立医科大学眼科非常勤講師
屈折調節研究会世話人
眼の慢性疲労症候群研究会世話人

CLINIC DATA

診療内容
眼科診療一般、眼鏡処方、コンタクトレンズ処方
所在地
東京都港区芝浦3-6-3 協栄ビル4F
診療時間
10:00~13:00、15:00~18:30 (土曜は17:00まで)
休診日
木曜日・日曜日・祝日
   
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